世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

A19 海外の温泉付きホテル② インド

 あけましておめでとうございます。今年もマニアックな温泉記事を書き進めますので、よろしくお願いいたします。海外の温泉付きホテルの2回目はインドです。

 

タッタパニ温泉:インド、ヒマーチャルプラデシュ州マンディ県

(1) 山中の温泉を目指して

 タッタパニはヒンドゥ語で温泉(Tatta=Hot, Pani=Water)という意味。インドやネパールに同名の地名がたくさんあります。他の温泉と区別する際はマンディMandiのタッタパニ温泉と呼ばれます。ここにインド屈指の硫黄泉に浸かれる温泉ホテルがあると聞き、訪ねてみました。日本のゴールデンウィークの時期でしたが、インド行きのフライトは競争率が低く、たまったマイルを使って無料の特典航空券をゲットできました。また、インドでは特に観光シーズンでもないので、どこも空いていて、しかも国内線フライトやホテルの宿泊料金は安いとあって、快適な旅を楽しめました。

 ホテルはサトレジSutlej川に面しており、川原からも温泉が湧出することで知られています。以前、BS日テレで「世界温泉遺産」という番組を放映していましたが、大勢の人が川原で湯浴みを楽しんでいる風景が印象的でした。和歌山県の川湯温泉の仙人風呂のようでいつか行ってみたいと思っていました。しかし、2000年頃から工事が始まり、2015年に完成したダムにより、川の水位が上昇し、今では水没してしまったと聞きます。ただ、かろうじて川原の温泉は残っているとの情報もあり、自分の目で確認することにしました。

 シムラーの空港から温泉までは、車で2時間程度ですが、デリーからのフライトが1日1便しかありません。5時間ほど離れたチャンディーガルの空港からは1日10便以上のフライトがあるので、こちらを利用しました。次第に道は悪くなり、岩肌が崩れて大きな岩が転がっていたり、ヤギの大群とすれ違ったりします。マンディ県の山間部には美しい段々畑が広がっています。二毛作、三毛作は当たり前で、乾季の今は小麦の収穫時期とのこと。ジャガイモも作付けられていました。7月頃になると、雨季が始まり田植えの季節です。その時期はさぞ美しいのではないかと思いますが、道路はぬかるんで状況はさらに悪くなるかもしれません。世界遺産に登録されている棚田としては、中国・雲南省の元陽、フィリピン・ルソン島北部のコルディレラ、インドネシア・バリ島のテガカランかなどが有名ですが、それらに負けない規模と美しさでした。

マンディ県の段々畑
左:道はしばしば放牧中のヤギで通行止めとなる
右:マンディ県の山間部はこんな道が続く。右手は深い崖

 

(2) 素晴らしい泉質の温泉に満足

 やがてサトレジ河畔にホテルが見えました。屋根の上のHot Springsの文字は遠くからでも確認できます。ホテル・サンディヤ・ホットスプリング・ヘルスケアHotel Sandhya Hot Spring Health Careは4階建てのこぎれいなホテルでした。ここもシンプルな客室ですが、サトレジ川の眺めが印象的です。反対側のマウンテンビューの部屋は格安ですが、せっかくなのでレイクビューの部屋を予約しました。なお、インドの田舎では、トイレの水やシャワーの湯はタンク方式が一般的です。いったん使うと溜まるまで時間がかかるので、よく考えて使う必要があります。また防音機能はほぼなく、廊下や隣室の会話は筒抜けでした。

左:ダム湖の岸に温泉ホテルが見えてきた
右:青や赤のはっきりとした色遣いがインドらしい
ホテルの客室(左)と窓の外の眺め(右)

 早速、温泉浴場に向かいます。フロントと同じ1階にあり、男女別の脱衣室には鍵付きの木製ロッカーが並んでいました。メインの温泉プールは一つ。浴室に入ったとたんに強い硫黄臭が漂っています。プールは長方形の一角をきりとったような形。20~30人はゆうに入れる広さです。胸の高さ程度の深さで、湯温は約40℃と快適。わずかに白濁しているがほぼ透明です。湯口の周囲には白い析出物が形成されています。清潔な環境で適温の硫黄泉に24時間入浴でき、大満足でした。なお、ドアの外に長方形を2つに区分した露天浴槽がありましたが、残念ながらこれは水。その脇にある子供用のプールも水でした。ただ、暑い時期には温冷交互浴を楽しめて、よいかもしれません。

 浴後は川原の散策に向かいます。水位が上昇したサトレジ川は湖のようで、立ち枯れた樹木が点在していました。少年が一人、水を汲んでいます。湖岸の水はわずかに温かいのです。湖面をよく眺めると、あちこちから気泡が上がっています。腹ばいになって横たわれば、とりあえず温泉浴はできそうです。ただ、ホテルの温泉に満足してしまったので、見学のみで引き返しました。

左:朝の温泉プールは蒸気が立ち上っている
右:適温の湯が注ぐ湯口と白い析出物
左:河畔からわずかに温泉が湧いている
右:川面をよく見ると無数の気泡が湧き上がっている。

 川原で入浴できなくなった地元の人たちのために、共同浴場が作られているというので訪ねてみました。宿の裏手の庭を抜けると、すぐにはっきりとした硫黄臭を感じます。コンクリート製で5人ほどが入れそうな浴槽が一つありました。溢れた湯は水路を伝わっていきます。風呂に入る人、車を洗う人、洗濯する人などとさまざまです。右手にも同じような水路があり、こちらは野菜を洗ったり、湯を汲んだりする場所のようでした。湯の排出口には白い糸状の「硫黄芝」が見られます。どちらの湯もそのまま水路を伝わりダム湖へと流れていきます。

 川原の野湯は雨季や雨天時、増水時は入浴できません。一方、この共同浴場は一年を通して湯が供給されています。旅人からすると、川原の野湯がなくなったのは残念ですが、地元の人から見れば、今の共同浴場の方が便利なのだと思われます。

 ホテルに戻り夕食をとろうとすると、レストランは20時オープンとのこと。今は18時。翌朝は早いし、何か食べられないかと聞くと、「カレーならできる」とのこと。連日、カレーばかりですが、20時以降は違うメニューがあったのでしょうか。インドに多い菜食レストランだったのか、テーブルの上に並んだのは野菜カレーと豆のカレーでした。ただ、連日食べ続けているカレーの中で、このレストランはとてもおいしかったです。

左:インドといえばやっぱりカレー
右:共同浴場の様子。洗車に来ている人もいる

(3) 復路でインドを感じる

 翌日は来た道を戻ります。空港のあるチャンディーガルはパンジャーブ州とハリヤーナ州の州都を兼ねる珍しい町です。インドでは珍しい計画都市で碁盤目状に整備されています。世界遺産に登録された国立西洋美術館(東京)などで知られるル・コルビジェが設計した町としても知られ、市内のいくつかの建造物は世界遺産に登録されています。残念ながら、今日は時間がありません。

 12時45分にチャンディーガル空港に到着。15時15分のフライトなので十分に余裕があると思っていましたが、とんでもないことが待っていました。あとで知ったのですが、予約していた航空会社は最近フライトナンバーと着発時刻の変更を実施したとのことですが、メールでの連絡等は一切ありませんでした。便名と出発時刻が変わり、50分早まっていました。2時間半前に着いたつもりが、あと1時間40分ということになります。搭乗手続きの前に、機内預け荷物のX線チェックを受けなくてはならないのですが、機械は一つしかなく長蛇の列です。係員を見つけ、「時刻と便名変更があるようだが、間に合うだろか」と尋ねると、チケットを見て「あなたの予約した便は、15時25分発なので大丈夫」との返事。さっき尋ねた人は14時25分発の便だというがどちらが正しいのでしょうか。心配になりつつ荷物チェックを受けると、シェーバーが引っかかり、スーツケースを開けて再検査となりました。

 ようやくOKをもらい、スーツケースに検査済のシールを貼ってもらいました。搭乗手続きのカウンターで発券された航空券は早めの14時25分の便で、搭乗開始は13時40分と伝えられました。今、13時15分なので、あと25分しかありません。X線検査の係員の説明はやはり嘘だったのです。セキュリティチェックで小型カメラやバッテリーが引っ掛かり、ここでも時間をロス。まさに搭乗が始まる直前に到着しました。

 かつては、搭乗の72時間前までに航空会社に電話をして、リコンファーム(予約の再確認)を行うようガイドブックなどに明記されていましたが、最近は予約の確認や変更などの連絡がメールで届くので、気を抜いていました。インドの格安航空会社ではそんなことは通じないというのを肝に銘じました。

 定刻より10分早く出発。機内食はチキンかチーズのサンドイッチを選びます。チキンサンドを選ぶと、やはりカレー味です(もはや驚きません)。デリー空港に到着し、連絡バスでターミナルに向かいます。預け荷物の受け取り場には5~6台のカルーセル(ターンテーブル)が並んでいます。降機前に客室乗務員が「6番」とアナウンスしていましたが、別の便の荷物が流れ、我々の便は表示もありません。もしやと思い周囲を歩くと、3番に搭乗便の表示がありました。「そらみたことか」と待っていましたが、流れている荷物のタグをみると、やはりほかの便。もう一度6番に戻ると、便名表示がないにもかかわらず、搭乗便の荷物が流れていました。さすがはインド。けっきょく機内でのアナウンスが正しくて、空港での表示はすべて間違っていたことになります。

 インドの旅では、このようなことは日常茶飯事。「何が起こっているのか」「見聞きしている情報に間違いはないか」。常に「注意のアンテナ」を高く保たないと乗り切れません。何事も計画通りに進む日本で暮らしていると驚くことの連続ですが、タッタパニ温泉が想像以上に素晴らしかったので、大満足の旅でした。