世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

A28 海外の温泉付きホテル⑪ アメリカ3:アラスカのチェナ温泉

 世界の温泉に戻って、アメリカの温泉ホテルの紹介を続けます。今回はアメリカ最北のアラスカ州フェアバンクス郊外にあるチェナ温泉です。フェアバンクスは冬季のオーロラ観光で人気の町。チェナ温泉はオーロラを見ることのできる数少ない温泉宿として知られており、コロナ禍の前に家族で訪ねてみました。

チェナ温泉の源泉岩風呂。冬は昼でも太陽が昇らない。

(1) ホテルまで

 成田からアメリカのシアトルへの直行便を利用し、アラスカ航空に乗り換えます。イヌイットのおじさんが描かれた尾翼が並ぶ光景はシアトル空港ならではです。銀雪を冠した山々の絶景を眺めながら、フェアバンクスまでは4時間のフライト。零下20℃くらいの寒さはふつうと聞いていましたが、この日は零下10℃。思ったほど寒くはありませんが、息を吸い込むと、むせそうになります(冬のアラスカでは深呼吸禁止とのこと)。

 チェナ・ホットスプリングス・リゾートはフェアバンクス空港の東110キロにある山中の一軒宿。周囲に灯火などがないので、オーロラ観光に向いているといわれます。交通量は少ないので、冬でなければレンタカーが便利ですが、気温が低く雪も多いので送迎車を予約しました。途中でスーパーマーケットに立ち寄り、3泊するのに必要な水や果物、菓子などを買い込みます。空港から直行すれば1時間半ほどですが、寄り道をしたので2時間ちょっとかかって、宿に着きました。

左:シアトル空港にはアラスカ航空の飛行機がたくさん
右:チェナ温泉のゲート。ようやくたどり着いたという気持ちが高まる

(2) 一泊目

 チェックインの際、部屋のカギと4日間使える温泉入浴券、食事やアクティビティ利用時に提示するカードを受け取ります。森の中のコテージは1階と2階に各2室、4室で一棟の構成です。2つの部屋にそれぞれ2台ずつベッドがあります。かなり寒いですが、暖房を入れると急速に暖まります。すでに夜を迎えているので、オーロラの出現を待つだけですが、そんなにうまくはいきません。

 本館脇にアクティビティセンターという休憩兼待機所があるのですが、日帰りのツアー客で満員です。フェアバンクス市内のホテルに泊まり、夜になるとチェナ温泉にやってきて、ここでオーロラを待ち、深夜に市内へと戻っていくツアー客でいっぱいなのです。日本人客が一番多いかもしれません。

 センターの外には照明を落としたオーロラ観察小屋があり、北に開けた平地を室内から望むことができます。少し寒いので、ここはあまり混んでいませんが、この日の天気は下り坂。徐々に厚い雲に覆われてしまい、オーロラ観察を断念しました。

左:低層の建物が並ぶチェナ温泉
右:コテージは4室で1棟
左:市内から来たツアー客はこの部屋でひたすら待つ
右:水墨画のような風景がどこにでも広がっている

(3) 2泊目

 翌日は昼前まで寝たあと、温泉に向かいました。高緯度のため、日の出が正午近くと遅く、日没は16時過ぎ。太陽は高く登らず、山の稜線より下を水平に移動するだけなので、晴れていても盆地のチェナ温泉には陽が射しません。温泉館の受付でカードをみせると、タオルをくれます。奥行方向に長い浴室には、手前にジャグジー浴槽が2つ。奥に長方形のプールがありました。ジャグジーは40℃前後で温かく、どちらも5~6人は入れます。ぬるめのプールは手前側が浅く、奥に行くほど深くなっていて、家族連れでにぎわっていました。すべて温泉を利用しているとのことですが、殺菌のための消毒液のニオイが強く、温泉らしさはみじんもありません。

 露天風呂に向かうと屋外はマイナス15℃。通路は二手に分かれていて、右手は小さな露天風呂に通じています。氷点下の気温で髪が凍るのが面白くて、入浴客は互いに触りあっています。湯の温度は40℃前後でちょうどいい感じです。一方、左手の屋根つき通路を渡った先の源泉岩風呂は18歳以上しか利用できません。「殺菌消毒をしていないので、発育中の子供にはリスクがある」というのが理由で、日本ではちょっと考えられません。

 ドアを開けると、もうそこは岩風呂の中。ゆるやかなスロープを伝って歩いていくと、胸くらいの深さで、湯温は40℃以上。猛烈な湯気のため、外気の冷たさは感じません。岩風呂の底は砂敷きのため、歩くと足裏が刺激されて気持ちいいです。硫黄臭が強烈で、源泉の近くへ行けばいくほど湯温は上がります。湯温・湯量・雰囲気ともにすばらしい温泉で、はるばるアラスカまで来た甲斐があります。

 チェナは「温泉に浸かってオーロラが見える」と紹介されることもありますが、湯気がすごいのと照明があるので、よほど強烈なオーロラでないと、露天風呂からは見られないでしょう。

左:内風呂はただのプールで温泉らしさは感じられない
右:源泉の直上に設けた露天の岩風呂は素晴らしい

 オーロラの強さは5段階に分けられますが、2日目の夜は「レベル1(Quiet)」でした。何となくグレイの雲のようなものが広がっているだけですが、カメラで撮ると緑色のオーロラなのです。欲求不満なレベルですが、遠路はるばるやってきた観光客はそれでも、「アラスカでオーロラを見た」という事実にみな喜んでいました。

 

(4) 3泊目

 この日も昼前に起床。日中は宿のアクティビティに参加します。最初は犬ぞり。15頭ほどの犬が引くそりで広い園内を一周するのですが、予想外にすごい迫力で楽しめました。仰向けに座ったレーシングカードライバーのような姿勢で乗るので、目線が低くけっこうなスピード感があります。その後は建物も館内もすべてが氷でできたアイスミュージアムを見学しました。氷製のミロのビーナスを見学したり、アイスバーで温かいドリンクを飲んだりとけっこう楽しい時間を過ごしました。

 夕食までは再び温泉三昧です。未成年の子供が一緒だったので、露天の岩風呂は夫婦交代で楽しみましたが、何度入浴しても素晴らしい温泉でした。

左:犬ぞりは期待以上。特にカーブを曲がるときが迫力満点だ
右:アイスミュージアムは有料だが、十分楽しめる

 復路のフライト時刻の関係から、翌日はフェアバンクス市内に宿泊し、別の場所へのオーロラツアーに参加するので、チェナ温泉での宿泊は今日が最終日。雲一つない快晴ですが、いつまで待ってもオーロラは出現しません。その代わり、鮮やかな流れ星が目の前をよぎり、それはそれで感動的でした。

 深夜1時過ぎに日帰り客が市内へと帰り、我々も諦めて部屋に戻ったのですが、しばらくすると、「オーロラが出ているぞ」と外で大きな声が聞こえます。慌てて防寒着を着込んで外に出ると、目の前に緑色の揺らめく光がありました。晴れ渡る空に、緑の光が強くなったり弱くなったりして、あちこちで歓声が上がります。30分ほど楽しめたでしょうか。日帰り客の皆さんがホテルへの帰路、どこかでオーロラを見られたならよかったと思いますが、チェナ温泉に連泊して正解だったと思う瞬間でした。最後の最後で登場するとは、「テレビの番組のような演出だね」と家族で笑いました。後で公式記録を確認したところ、5段階の「レベル3(active)」だったようです。

左:やっと出現したオーロラ。素人のカメラではこの程度だが、実際はこんなものではなく感動する。
右:宿のレストランの食事はだいたいこんな感じ。若い人なら満足かもしれない。

 なお、滞在中の食事はホテルのレストランでとることになりますが、ハンバーガー、ステーキ、パスタ、ピザ、サーモングリル、クラムチャウダーなどが主なメニューです。どれも量が膨大で脂っぽく、胃に負担がかかります。朝食はそうでもないのですが、昼・夜と続けてレストランで食べるのは次第にしんどくなって、持参した「尾西のアルファ米」やカップラーメンで済ませてしまうことが何度かありました。

 露天の源泉岩風呂が実にすばらしいチェナ温泉ですが、オーロラが見られたこともあってさらに思い出深い滞在となりました。なお、日本人客が多いので、チェナ温泉のサイトには日本語のページがあります。予約の際、いくつか質問があったため、英語でメールを送ったところ、日本語で返事が返ってきてびっくりしました。今回の記事を書くにあたって確認したところ、日本語ページ自体はあるものの、最近は更新されていないようです。

 また、条件が良ければ数日間続けてオーロラが見られますが、低気圧で曇天だとまったく見られない日が続くとのこと。オーロラを見るための一生に一度の旅なら、3泊以上の宿泊が望ましいといいます。