世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

A15 アフリカで出会った個室風呂

 3回に渡って中国の個室風呂温泉を紹介しました。今回は日本人にとってまだまだ馴染みの少ないアフリカで訪ねた個室風呂を紹介します。

 「アフリカに温泉があるの?」「暑いアフリカで温泉に入浴するの?」と思われる方が多いかもしれませんが、アフリカ大陸の大半の国に温泉があります。特にアフリカの北部(地中海沿い)、東部(大地溝帯沿い)、南部には数多くの温泉が湧いています。また、アフリカと一口に言っても、赤道直下の国を除けば、「四季」に相当するような季節があり、冬はかなり寒い国も少なくありません。

 

(1) チュニジアのズリバ温泉

 地中海に面した北アフリカのチュニジア。イタリアのシチリア島までの距離はわずか150キロです。首都チュニスの近郊には、かつて古代ローマ帝国と覇権を争った都市国家カルタゴの遺跡があります。チュニスの旧市街やカルタゴ関連の遺跡など、日本の4割ほどの国土に8つの世界遺産があります。地中海沿岸のビーチリゾート、世界遺産に登録された古代遺跡、南部の広大なサハラ砂漠など、バラエティに富んだ目的地があり、ヨーロッパでは人気の国です。

 チュニジアではコルブスという海岸温泉が最も有名ですが、チュニスの近くのズリバ温泉も人気があります。チュニスからの距離はわずか60キロ、空いていれば車で1時間です。道路のどん詰まりに位置する温泉街の手前に遮断桿があるので、車では進入できません。正面の広場にはゾウを連れたハンニバルの像があります。第二次ポエニ戦争を率い、ローマ帝国と戦ったカルタゴの英雄です。

左:カルタゴ遺跡のアントニヌスの浴場跡
右:2世紀に建設されたザグーアンの水道橋

 ハンニバルの像の裏側に男女別の共同浴場、その右奥に個室風呂を備えた浴場があります。共同浴場では写真を撮りにくいので、右奥の個室浴場に向かいました。個室風呂は人数ではなく部屋単位の料金。何人で利用しても2時間で約1800円(壁に料金が書いてあるので、ふっかけられたわけではありません)。一人だとかなり割高ですが、仕方ありません。

 受付から奥の浴室棟に向かうと、係員が空いている個室に案内してくれます。入口側に1.5畳ほどの脱衣室があり、奥に3畳ほどの浴室があります。青を基調とした浴槽は円形で、直径1.4メートル、深さ75センチと大きく、4人は楽に入浴できます。しかも41~42℃と申し分のない温度。ヨーロッパのぬるめの温泉に比べると、日本人好みの温度です。水の蛇口はないので薄めることはできません。温泉水を口に含むと、わずかな塩味と強い苦みを感じます。

 浴槽が大きいので、湯を溜めるのに10分以上かります。確かにこれでは1時間だと短いかもしれません。そのまま湯を入れ続けると、やがて溢れて浴室を湯浸しにしてしまいます。浴槽内には腰を掛ける段があるので、半身浴を楽しむこともできます。誰もいないので浴槽の縁に横たわり、トド寝を決め込むことも可能です。さすがに2時間は長すぎますが、とても満足できる温泉でした。

左:同じく世界遺産のチュニス旧市街
右:温泉街入口のハンニバルの像。左奥が共同浴場の入口
左:個室風呂浴場の入り口
右:共同浴場の丸屋根
左:個室の脱衣スペース。左奥が浴槽
右:適温の湯をたっぷりと楽しめる個室風呂

(2) アルジェリアのウレードアリ温泉

 チュニジアの西に位置するアルジェリア。同じく古代ローマの遺跡群やサハラ砂漠観光などで有名な国です。ただし、チュニジアと異なり、事前に大使館でビザを取得する必要があります。しかも、個人での取得は難しく、大使館が認定した旅行会社を通じて予約するのが一般的です。このため、旅行のハードルは高いのですが、チュニジアと合わせて旅してみました。

 起点となる町はコンスタンティーヌ。ヨーロッパやトルコからの直行便があり、アルジェリア東部の観光に便利な町です。コンスタンティーヌの地名はローマ皇帝コンスタンティヌスに由来します。3000年の歴史を誇り、ローマ時代の遺構も残っています。急峻な崖の上に築かれた町はまさに要塞です。昔は外部と通じる橋が一つしかなかったといいますが、今では7つの橋が生み出す景観自体が町の名物となっています。

コンスタンティーヌはまさに断崖の町(2枚とも)

 温泉のあるホテルに泊まりたかったので、コンスタンティーヌから東へ車で2時間のウレードアリ温泉で一泊しました。エルバラカ・ホテルは巨大な複合ホテル。大きなプールを備え、家族向きのホテル2と、温泉浴場を備えた湯治場的なホテル1があります。当然、ホテル1を予約しました。ホテル2に比べ古びた感はありますが、館内も客室も清潔です。

 受付は元サッカー選手のベッカムに似たイケメンのお兄さん。アルジェリアでは宗主国のフランス語とアラビア語の説明しかない場所が多いのですが、お兄さんは英語で説明をしてくれるので助かりました。なお、外国人が宿泊する際は、警察に登録する必要があるようで、パスポートを一時預けなくてはなりません(他の国でも何度か経験しました)。お兄さんはパスポートを元に書類を作成しますが、父親と母親の名前を書く欄があるようで、聞かれました(アラブ圏では何度か同じ質問を受けました。故人でも構わないとのこと)。約3時間後にパスポートは返却されたのですが、ちょっと不安です。

 ホテルの隣が浴室棟で、入浴だけの利用も可能です。日帰り客は専用の入り口から、宿泊客は館内の通路を通って浴室棟に向かいます。受付の右手が男性用の個室、左手が女性と家族用の個室で、待合室も別々です。チェックインの際、フロントで入浴券を1枚渡もらったので、それを見せると個室に案内されます。入浴料は日本円で約300円。2回目以降の入浴時は受付で支払う必要があります。

 4人は浸かれそうな浴槽のある個室で、浴槽の底には千枚皿のような析出物が形成されていました。湯と水の蛇口を自分で開けて湯をためます。触れてみると水ではなく冷ました温泉水でした。チュニジアと同じく41~42℃の湯で、しっかりと温まります。泉質的には重曹泉のようで、甘みというかうまみのような味を微かに感じます。タイル張りの浴室は広いので、しばしトド寝を楽しみました。

 ホテルの真向かいには大きな貯湯槽が見えます。光の加減か、緑色に見える池に勢いよく温泉水が注いでいます。ここで、湯を冷ましているようです。

ホテルの外観(左)と源泉を溜めた池(右)
男性用(左)、女性・子供・家族用(右)の表示
左:個室風呂の例。もっと広い部屋もある。
右:浴槽の底にはうろこ状の析出物模様が見える

(3) マダガスカルのベタフ温泉

 アフリカ大陸の南東に浮かぶ島国のマダガスカル。アフリカでは珍しく主食は米で、水田の広がる風景はどことなくアジアを思い出させます。マダガスカルと言えば、バオバブの並木道と様々な種類のキツネザルが人気です。ただ、全土に渡って温泉が湧いているのはほとんど知られていません。バオバブ観光とともに温泉を巡ってみました。

 首都のアンタナナリボからバオバブのあるムルンダバへは車で片道15時間ほどかかります。そのうち、約3分の1は未舗装の悪路(もしくは舗装されているが、デコボコの道)。脳みそが攪拌されるような道を延々と走って、ようやくバオバブと対面できます。途中、トイレもほとんどありません。ガソリンスタンドでドアの壊れたトイレを利用するか、「青空トイレ」の2択です。ムルンダバへは国内線のフライトもありますが、週2便ほどの運航で遅れやキャンセルが多く、あてにならないとのこと。

いわずと知れたバオバブの並木道。夕景も美しい

 車で行く場合、途中でアンツィラベを通ります。首都のアンタナナリボの南170キロ、標高1500メートルの中央高原にある町です。夏は涼しいのですが、冬は気温が氷点下となる日もあります。マダガスカルで最も有名な温泉町でもあるため、旅行者の多くはここで1泊します。

 フランス統治時代の1917年に開業したというレトロな温泉センターは今も現役。左右の両翼に男女別の個室浴場が7室ずつ並んでいます。医師の診察を受け、ポリ浴槽の個室風呂に入浴することが可能ですし、町中の数か所にある温泉プールを楽しむこともできます。

左:アンツィラベの温泉センター。フランス時代の面影を残す
右:温泉センターから少し離れたラノヴィシーの温泉プール。

 個室風呂でよかったのは、アンツィラベの西20キロのベタフ温泉です。急な階段を下りた川沿いの狭い敷地に、個室風呂が7室あります。一番奥に源泉槽のある小屋があり、小屋の脇の池からもぷつぷつと気泡が上がっていました。2室が1棟の通常浴室が3棟と、一番奥に贅沢な浴室があります。贅沢な浴室でも150円程度です。温泉は自噴しているようですが、各個室への供給は動力が頼り。旧式の発動機にひもをかけて引っ張ってモーターを起動します。若い娘さんが何度かトライしますがうまくいきません。お母さんが交代すると一発でモーターが動いて、勢いよく湯が浴槽に溜まり始めました。楕円を四分の一に切ったような形のタイル張り浴槽に45℃前後の熱い湯が注ぎます。無色透明、無味無臭の湯ですが、湯量は豊富で温泉らしさを感じます。マダガスカルでは唯一、肩までどっぷりと浸かれる高温の湯で、気持ちよい入浴を楽しめました。

左:ベタフ温泉の全景。手前が一般浴室。奥のオレンジ色の建物が贅沢浴室
右:スターターロープを引いてもなかなか発電機が動かない
左:一般浴室も悪くない
右:贅沢浴室の浴槽に新鮮な湯が注がれる

 アフリカの温泉というと、「清潔ではない」という偏見を持たれがちですが、以上で紹介したように、快適な入浴を楽しめる温泉が数多くあります。温泉を目的にアフリカを訪れる人は少ないと思いますが、アフリカ旅行のついでに温泉というのは「あり」だと思います。