世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

A13 中国で出会った個室風呂②

 前回に続き、中国で体験した様々な個室風呂を紹介します。

(1)伝統温泉の快適な個室風呂

 中国西南部、雲南省最大の安寧温泉。明朝の永楽年代(1403~1423)に開発された歴史ある名湯です。無色透明の湯ですが、光の加減で清冽感のある緑色に見えるため、「碧玉泉」とも呼ばれます。省都の昆明市内からも昆明長水空港からも1時間以内と、アクセスも抜群です。安寧市に入ると「天下第一湯」と書かれた巨大な牌楼門が迎えてくれます。中心となる入浴施設の名も「天下第一湯」。すぐ左手に見えるのが泉眼です。源泉井戸を中国語では「泉眼」と呼ぶのですが、なるほどと思う漢字表現です。梅の花を半分に切ったような形の池を覗き込むと、岩を敷き詰め、中央部を石板で囲んだ水底から40~43℃の源泉が湧きだしています。

 男女別の露天プールもありますが、人気があるのは個室風呂です。建物の2階に上ると、泉眼をL字型に取り囲むように個室がずらりと並んでいます。指定された個室に入ると、3~4人は入浴できそうな大きさの浴槽がありました。部屋によって浴槽のデザインが違うそうですが、この部屋は壁面がタイル貼り、浴槽の縁は木板、床には白を基調とした切石が敷いてありました。

 部屋に入るや否や、浴槽の底から猛烈な勢いで湯が放出され、室内は湯気で煙ってしまいます。浴槽を満タンにすると湯は溢れだし、床をずぶぬれにして浴室の外に流れ出します。靴や荷物をうっかり床に置いていたら、水浸しならぬ湯浸しになってしまうでしょう。浴室の外に湯が流れ始めると、ようやく湯が止まります。慣れていないと呆然としてしまいますが、湯量が豊富で、しかも床を洗い流すことで清潔さをアピールする中華風のサービスなのです。筆者はこれまでに中国で何度か経験したので、床には何も置きませんでしたが、初めてだと驚くと思います。その後も、少量の湯が浴槽から溢れ続け、かけ流しの湯を楽しめます。眺望は効かないものの、温泉の迫力を十分に堪能できる施設でした。

左:「天下第一湯」と記された安寧温泉の牌楼門
右:メインの入浴施設「天下第一湯」の入り口
左:天下第一湯の源泉池(泉眼)と2階に並ぶ個室浴場
右:猛烈な勢いで湧き出す源泉。碧玉泉の名にふさわしい
左:泉眼には触れないが、建物内の井戸で泉質を確認できる
右:個室風呂の一例。広さも湯温も満足できる

 入浴後に周囲を散策すると、プーアル茶の専門店が並んでいます。雲南省はプーアル茶の本場で、省の南西部には中心産地の普洱(プーアル市)があります。遠方まで効率的に輸送するために、茶葉を圧縮して発酵させた「餅茶」を巧みに配置したレイアウトは見るだけでも楽しめます。

 温泉から安寧市内に戻る途中で摩岩石刻長廊に立ち寄りました。200メートルほどの砂岩の壁に、様々な字体で130余の詩や格言が彫られています。明代以降、この地を訪れた者が岩を穿ち、掘り重ねた集成とのこと。大きな文字に小さな文字、荒削りの字体に精緻な筆致とスタイルは様々。文字は赤色で染められ、岩壁とのコントラストが鮮やかです。眺めていると、気に入った言葉や字体がみつかるはずです。

左:両脇の九重塔も中央の福の字もプーアル茶の餅茶
右:中国を旅すると漢字の美しさと奥深さを再認識する

 

(2) 雲南省で個室風呂めぐりを楽しむ

 前回、温泉寺の門前にあった賈王温泉と、ツインベッドタイプの湯池温泉を紹介しました。どちらも雲南省宜良県の温泉で、昆明市の東にあります。宜良県には実に多くの温泉地があるので、ハシゴ湯を楽しめます。宜良県城(県庁所在地)の南東15キロにある小馬街温泉もその一つ。白いタイル貼りの浴槽は二畳ほどの広さで、浴槽の中央部は一段落ち込んでいます。全身で浸かるのにちょうどよい深さです。その両側には40センチほどの段があるので、腰掛けての半身浴に向いています。浴槽内の右手側はスロープ状でデッキチェアに寝そべる様な姿勢で入浴できます。その際、足を反対側の段に置くと姿勢が安定します。浴槽の底に座る、段に腰掛ける、横たわるという3通りの姿勢が楽しめる面白い構造です(雲南省ではこの種の浴槽を時々見かけました)。

 蛇口をひねって湯を注ぎ始めると硫黄臭がプーンと香りました。天井は高めで、湯抜き用の窓からは明るい光が差し込みます。眺望は効かないものの、十分な広さの個室風呂で大満足でした。

日本人なら見落とさない小馬街温泉の入り口(左)と機能的な浴槽(右)

 

(3) 雲南名物「蘭老鴨」を食す

 もう一つ、宜良県城の北3キロにある蓬莱温泉を紹介します。男女別の大浴場と個室風呂がありますが、大浴場を覗くとイモ洗い状態でしたので、個室風呂を選びました。通された個室には梅の花のような5枚の花びら型浴槽が1つ。源泉は57℃で硫黄臭のする放射能泉と資料に書かれていますが、臭いは感じられません。見た目は美しいのですが、機能的には小馬街温泉に軍配があがるといった感じでしょうか。

これもわかりやすい看板(左)と蓬莱温泉の個室風呂(右)

 蓬莱温泉から宜良県城に戻ると、名物の蘭老鴨を提供するレストランが多くあります。地元の人が薦める学成飯店で昼食をとりました。一度に数百人が食事できるような広い店で、入口にずらりと干し鴨がぶらさがっていました。北京ダックと同じように、あぶった麻鴨(コガモ)を甘味噌(甜面醤)やネギと一緒に食べるのですが、具材を包む皮(烤鴨皮)は使いません。パリッとあぶった皮付きの肉を直接、味噌か山椒塩につけて食べます。確かにとてもおいしく、余分な脂をあぶって落としてあるので、食が進みます。店のキャッチコピーは「北有全聚徳、南有蘭老鴨」。訳せば「北に全聚徳あり、南に蘭老鴨あり」となるでしょうか。全聚徳といえば、北京ダックで全国的に有名な老舗で、日本にも支店があります。それと互角の名物料理だとアピールしているのですが、全聚徳に引用許可を取っているのかわかりません。中国ではこの種の「比較宣伝」が多く、漢字の妙を含めて楽しめます。

蘭老鴨を食べられる学成飯店(左)と入口の干し鴨肉(右)
左:一羽丸ごと提供される鴨肉はパリッとしておいしい
右:「北に全聚徳あり、南に蘭老鴨あり」の挑戦的な表示