前回に続き、台湾の温泉ホテルを紹介します。宜蘭(イーラン)県にあるウェスティン宜蘭リゾートはマリオットグループが経営する台湾初の高級温泉ホテルで、2017年に開業しました。
このホテルに興味を持ったきっかけは、「源泉は員山(ユエンシャン)温泉」と記されていたからです。筆者は2007年に「湯けむり台湾紀行」という台湾の温泉ガイドブックを出版しました。登山などが必要な一部の温泉を除き、当時知られていた台湾中の温泉を網羅するつもりでしたが、員山温泉については情報が不十分で収録できませんでした。その後も心残りだったのですが、情報を入手して、2015年に訪ねてみました。日本と歴史的な関わりの深い温泉であるのを知りましたが、温泉自体はとても地味で、地元の人のみが利用しているという印象でした。「あの員山温泉にリゾートホテルが開業した」というのは驚きで、再訪したいと考えたのです。
高速鉄道や高速道路が整備された台湾の西海岸と異なり、東海岸はのどかな雰囲気を残しています。背骨のように島の南北方向を山脈が貫いているため、台湾の東西方向の移動は大変でした。しかし、長さ12.9キロという雪山トンネルが開通したことで、台北と宜蘭県の距離はバスや車で40分にまで短縮されました(以前は約2時間)。もちろん、日本製の特急車両が走る鉄道を利用して1時間半の旅もお薦めです。宜蘭駅から温泉ホテルまでは約6キロ。タクシーを利用するか、本数は少ないものの、ホテルの無料のシャトルバスを利用することもできます。
着いてみると、豊かな自然と調和した美しいホテルでした。温泉の内風呂がある安い部屋を予約したのですが、オフシーズンの平日にわざわざ日本から来たためか、露天風呂付きの部屋にアップグレードしてくれました。露天風呂は小さな庭付きで外側に木柵で目隠しが作られています。3人くらいは十分に入れる広さで、滞在中は何度も浸かりました。
本や資料によっては、源泉名を宜蘭温泉と記していますが、ホテル内はすべて員山温泉の表示で統一されていました。新たに掘削したのか、大浴場も露天風呂も客室風呂もすべて源泉かけ流しとのこと。無色透明、無味無臭の湯なので、温泉らしさには欠けますが、部屋でいつでも温泉を楽しめるのは最高です。
1階のカフェ兼ラウンジの奥に大浴場と露天風呂があります。裸で入浴できる男女別の浴場で、日替わりで男女の浴室が変わります。1泊すれば両方楽しめるというわけです。到着した日は小判状に細長い露天風呂の浴室でした。片側から逆L字型で支える屋根があるので、雨天でも大丈夫です。若干緑色に濁ったように見える湯はかけ流しで、あふれた湯は床を浸していました。客室風呂で満足する人が多いのか、大浴場が混んでいるということはありませんでした。
ホテルの温泉をたっぷりと楽しんだ翌朝、かつての員山温泉がどうなっているのか、散策に出かけました。ホテル前の道は「温泉路」という名前です。員山温泉は外員山温泉と内員山温泉に分かれているのですが、2015年に入浴した内員山の養生会館は今も健在でした。ホテルから歩いてわずか3分の距離です。その手前に雲上泉という新しい入浴施設もオープンしていました。
さらに員山大橋を渡って進むと、ホテルから20分弱で員山公園(外員山温泉)に着きました。前回訪れたときは、入り口近くの池に温泉の湧出口があり、間欠的にゴボッゴボッと温泉が噴き出していたのですが、残念ながら枯渇していました(もしくは噴出間隔がさらに長くなったのかもしれませんが、どう見ても枯れた感じでした)。
公園の中央には宜蘭県忠烈祠があり、長い階段の上に赤い鳥居が見えます。日本が統治した時代、ここは護国神社として大国主命や天照大神など5神を祀っていましたが、戦後、社殿は壊され中華風の忠烈祠に生まれ変わったといいます。鳥居はそのままですが、青い縁取りが日本とは異なります。公園の奥にもう一つの源泉があり、「温泉露頭」という石碑が残っていました。今でも微温泉が湧いているようですが、湿地帯の奥にあるので近寄れませんでした。
宿に戻って客室の温泉をもう一度堪能し、シャトルバスで宜蘭駅へと戻りました。懐かしい員山温泉の現状を確認し、対照的な新しい温泉宿も楽しめたので大満足でした。ただ、周囲に観光目的の施設などはないので、万人向けの温泉郷ではないかもしれません。
以下、2015年訪問時の写真を掲載しておきます。