世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

A26 海外の温泉付きホテル⑨ アメリカ1:ホット・スプリングス

 今回から、アメリカの温泉ホテルを紹介します。

 まずは南部のアーカンソー州にあるホットスプリングスです。町の名前自体がホットスプリングス(温泉)というのはアメリカでもかなりレアものです。アメリカの温泉情報をウェブで検索する際に、工夫しないと、この町の情報ばかりがヒットしてしまう「困りもの」としても知られています。

 アメリカの温泉は西部の環太平洋沿いに集中していて、中部や東部には少ないのですが、ここだけは例外的に高温の温泉が豊富に湧いています。周囲にめぼしい温泉もないので、非効率的なのですが、世界の温泉を旅する以上、ホットスプリングスと名乗る町を欠かすわけにはいかないと思い訪ねてみました。

 

町のシンボルの老舗ホテル

 アメリカ南部のハブ空港の一つであるダラス・フォートワース空港(テキサス州)から国内線に乗り換え1時間20分のフライトでアーカンソー州の州都リトルロック空港に着きます。州都でありながら、リトルロックという名前を聞いたことがある人は少ないと思います。予めホテルに依頼していたシャトルに乗り、約1時間でホットスプリングスの町に着きました。途中、ビル・クリントン元大統領の生家の前を通りました。ここは元大統領の出身地なのです。このため、リトルロック空港は、ビル・アンド・ヒラリー・クリントン・ナショナルエアポートという名を持っています。

 1924年に開業したアーリントンホテルは町のランドマークとなっています。セオドアルーズベルト大統領、実業家のアンドリューカーネギー、野球のべーブルース、ギャングのボス・アルカポネなど、数々の著名人が宿泊したという老舗ホテルです。ロビーの天井が高く、調度品や階段もクラシカルな雰囲気です。ロビーの一角には飲泉場があるので、早速試してみましたが、無色透明で無味無臭の特徴のない湯でした。日本でいえば単純泉に分類されるでしょう。

左:堂々たるアーリントンホテルの外観
右:曲線を生かしたロビーはクラシカルな雰囲気

 客室数は478という大型ホテルですが、うち約50室は部屋に温泉を引いています。ちょっと割高ですが、おそらく一生に一度の機会と思い、温泉付きの部屋を予約しました。客室もクラシカルな感じで、あまり特徴的ではありません。温泉街を正面に眺める景色でした。どうやら温泉付きの部屋はホテルの中心部に位置しているようです。部屋の温泉は予想していた通り、ただの白いバスタブで、横たわって浸かるだけですが、とにかく貴重な一湯をカウントでき、満足です。

左:温泉とそれを冷やした冷泉を楽しめる飲泉場
右:余分なものはないシンプルな客室
左:客室の温泉風呂はこんな感じ。
右:窓の外にセントラルアベニューが見える

 7階脇には露天のプールエリアがあるので出かけてみました。三段の構成で一番上がもっとも温かく40℃前後、最下段はぬるめで水に近いような温度でした。「温泉を引いている」という記事と「プールは温泉でない」という記事が混在していますが、本当はどうなのかわかりません。何しろ無色透明で無味無臭なので、五感を駆使しても温泉かどうかはわかりません。そばにいた係員に聞いても、要領を得ませんでした。部屋に温泉浴槽がある安心感から、けっきょく白黒をはっきりさせずに終わりました。

左:最上段の露天プール
右:中段の露天プール。上段からのこぼれ湯が注いでいる

伝統的なバスハウスを体験

 客室以外の温泉に入浴したい場合、3階のバスハウスを利用します。といっても、自由に入浴できるわけではなく予約が必要です。白を基調とした大きな部屋で病院のような感じ。まずは小部屋の脱衣室で服を脱いで、タオルを巻くようにいわれます。最初は個室風呂でジャグジーの強烈な湯に15分浸かります。係の人が背中をボディスポンジで洗ってくれた後はミストサウナへ。ここは好きなだけいて構わないといわれました。その後、正面のベンチにあおむけに寝ると、係員が温泉で濡らしたタオル2枚をそれぞれの足に巻き、肩にもタオルをかけて、ラップのようにくるんでくれます。最後は、シャワー室で汗を流すというシステムです。いわれるがままに作業をこなす感じで、日本の温泉とはずいぶんと違いますが、タオルでくるんでもらうと、カラダは本当にあたたまります。このほか、別料金でのマッサージやトリートメントもあるようですが、依頼しませんでした。

左:バスハウスではあまり写真を撮れなかったが、カーテンの奥が個別の脱衣室
右:温泉浴槽。赤い棒状の機械の先がミキサーのように回転し、泡風呂を生み出す。

温泉街を散策する

 翌朝は、温泉街を散歩してみました。ホテルに隣接する公園には、湯量の豊富なホットウォーターカスケード源泉があります。温泉が流れ落ちる斜面は析出物で覆われています。浴槽のような池は2段あり、上段の湯は入浴するのに適温ですが、ここに入浴する人はいないようです。湯口付近も緑の析出物で覆われています。

左:カスケードの温泉池。ここに浸かってしまいたい誘惑にかられます。
右:温泉池の上方の斜面。まさにカスケード(段滝)状に温泉が斜面を流れます。

 その後、ファウンテンストリートやグランドプロムナードなど、周辺の通りを散策しました。随所に温泉や冷泉が湧いていて、飲泉を楽しめるのです。ホテルに数泊して、日中はのんびりと温泉街を散策して過ごす人が多いようですが、そのようなゆとりのある行程ではないので、次から次へと飲泉場を巡り、片っ端から飲んでみました。無機質なものや凝った意匠のものなど様々です。印象的だった飲泉場の写真を示します。

 メインの通りには、外来利用が可能なバスハウスがいくつかありますが、ホテルと同じようなシステムというので、利用しませんでした。

左:グランドプロムナード南側のノーブルファンテン。二羽の鳥が球体を支えていて左右に蛇口がある
右:リザーブストリートのジャグファウンテン。花台のような形状で緑色の析出物が覆っている

 11時のチェックアウト時刻ぎりぎりまで滞在し、再びシャトルでリトルロック空港に戻りました。何かがものすごくよかったというわけではありませんが、アメリカの伝統的な温泉町の雰囲気を味わい、伝統宿に宿泊できたのはよい体験でした。