世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

A17 温泉のない温泉ホテル②

 前回に続き、「温泉ホテル」という名前でありながら、温泉のないホテルを紹介します。前回は、アメリカ、カナダの超有名な温泉地を紹介しましたが、今回は日本人にあまりなじみのない国の「温泉ホテル」です。

 

(1) サブサブ・ホットスプリングス・ホテル(フィジー)

 300余りの島々から成る南太平洋のフィジー。リゾートアイランドのイメージが強いと思いますが、100か所以上の温泉があります。多くの国際線はもっとも大きなビティレブ島のナンディ空港に到着します。サンベト温泉(Sabeto)はフィジーで唯一の有名な温泉で、ナンディ空港の近くにあります。また、ナンディから島を周遊する道路を反時計回りに100キロ走ったコーラルコーストから、45分ほど山道を歩くと、拙著で紹介したロウアー・ブサ温泉(Lower Busa)があります。ナビティ・リゾートがこの温泉を所有しているため、温泉へ行くには宿泊客向けのオプショナルツアーに参加するか、周辺の許可された宿に案内を依頼するしかありません。実際には、周辺の住民に声をかけて価格交渉をすると、温泉へ案内してくれますが、「公式」にはお薦めできません。

左:サンベト温泉は泥湯(マッドバス)で有名
右:森の中の古代遺跡のようなロウアー・ブサ温泉(詳細は拙著参照)

 ビティレブ島に次いで大きなバヌアレブ島にも多くの温泉があります。玄関口となるサブサブの空港まで、ナンディ空港からは1時間のフライトです。19人乗りの小さな飛行機で、機体のバランスをとるため、事前に体重を計測して席が割り当てられます。サブサブの滑走路の先は海なので、下降時は海に着地するような感じでスリリングでした。

左:バヌアレブ島へのフライトは小さな飛行機で。欠航、遅延が頻繁にある
右:サブサブ空港のターミナルはこの建物のみ。体重計が無造作に置かれている

 サブサブ(Savusavu)は温泉の町としても有名で、いくつかの源泉があります。一番有名なのは学校近くの公園に湧くナカマ温泉です。高温の源泉がゴボッゴボッと音を立てており、うっかり触れると大変なので、白い石を並べて遊歩道の境界を示しています。ただし、爆発するような噴気が中心で、湯量は少ないので、入浴はできません。温泉は卵や野菜、キャッサバ芋を蒸すために使われています。

 サブサブの郊外にはフィジーらしいリゾートホテルがいくつかありますが、この時は、市内のサブサブ・ホットスプリングス・ホテルに泊まりました。温泉を引いていないことは承知していたのですが、ホットスプリングスと名の付く宿に泊まってみたかったのです。高台に建つ4階建てのホテルで、サブサブ湾の眺めがとてもよく、立地は抜群です。

左:ナカマ温泉の全景。
右:気温の低い朝方は噴気がよく見える
サブサブ・ホットスプリングス・ホテルの外観(左)と客室内(右)

 サブサブで温泉に浸かりたい場合はホテルの真下のビーチに向かいます。小石交じりの砂浜から温泉が湧きだしているのです。干潮時に訪れると湯気が上がっていますが、砂浜は熱く湯量は少ないので入浴できません。ただ、どこで湧いているのかを記憶しておく必要があります。潮が満ちてきたら、その場所を再訪すると温かい海水温泉に浸かることができます。温泉の湧く場所は熱いので、サンダルが必須です。

左:サブサブビーチの温泉の場所は蒸気で特定する
右:車で川を渡って行ったヌクンボルの温泉

(2) フィジーは国名じゃない?

 フィジーはかつてイギリスの植民地だったため、英語が通じます。今でもイギリス連邦に加盟してるので、オーストラリアやニュージーランドと同じく、国旗の左上にユニオンジャックが描かれています。格安な英語留学先として知られているそうで、毎年かなりの数の日本人がフィジーに滞在しているとのことです。

 英語圏で道もシンプルで分かりやすいので、レンタカーを借りました。国際運転免許証を取得するために運転免許試験場に出向いたのですが、びっくりすることがありました。運転する予定の国を書き込む欄があるので、「フィジー」と記入したところ、係官から「国名を記入してください」と指摘されました。「国名って、フィジーですよ」と答えると、「都市ではなく国の名前を書くのです」と、あからさまに私が間違っているような口調です。「オセアニアの島国のフィジーですけど」と再度回答すると、「ならオセアニアと書いてください」との返事。あまりにもという返答で、一瞬めまいを感じましたが、持っていたフィジーのガイドブックをカバンから取り出すと、係官は豹変したように、「あっ、フィジーね。そのままで結構です」と表情を変えずに言いました。フィジーを知らなかったことよりも、それほどまでにフィジーで運転する人は珍しいんだなとびっくりしました。

 ビティレブ島はサブサブ以外の温泉写真を事前に発見できず、情報も少ないままに渡航しました。結果的には、川を車で渡渉していくヌクンボル温泉(Nukubolu)、川を歩いて渡るヴニカワカワ温泉(Vunikawakawa)など、地味ながら興味深い温泉に出会えました。なお、ヌクンボル温泉はかなりの水量の川越えが予想されたので、現地でドライバー付きの四輪駆動車をチャーターしました。ワイルドな旅で記憶に強く残っています。

左:地元の人の案内がなければ、たどりつけないヴニカワカワ温泉
右:崖の上にきれいな温泉が湧いていた

(3) オテル・ドゥ・テルメ(マダガスカル)

 アフリカ大陸の東に浮かぶ島国のマダガスカル。アフリカの個室風呂を紹介した際にも触れましたが、たくさんの温泉が湧いています。もっとも有名なのがアンツィラベ温泉(Antsirabe)です。首都のアンタナナリボの南170キロ、標高1500メートルの中央高原にあります。フランスの植民地時代の建物が残っていることでも知られ、1917年に開業したレトロな温泉センターを以前に紹介しました。

 今回はオテル・ドゥ・テルメ(Hôtel des Thermes)を紹介します。フランス語でホットスプリングスホテルの意味です。1922年に建てられたコロニアルスタイルのホテルで、エレベータもありません。ロビーに1935年当時の写真が飾られていますが、今とほとんど変わりません。広くて立派な階段で2階の客室に向かいます。天井が高いレトロな客室は雰囲気があってよいのですが、防音性能は高くありません。廊下や隣室の声や物音がそのまま響きます。バルコニーからは庭の大きなプールが見えますが、温泉というわけではありません。ツアーの場合、設備が整った、もっと新しいホテルに宿泊することが多いようですが、温泉好きなら宿泊してみたいホテルです。

アンツィラベのオテル・ドゥ・テルメの外観(左)と館内(右)
レトロな客室内(左)とホテルからの町の眺め(右)。
湖岸には、ぬるめの温泉が湧く場所がある

 ホテルでは食事も楽しめます。マダガスカルはアフリカで珍しく米が主食の国なので、定食を頼むと山盛りの白米が添えられています。朝食にはおかゆを提供するホテルも少なくありません。このホテルの朝食は洋食でしたが、フランス領だったので、パンがおいしかったです。白米もパンもおいしいとあって、マダガスカルでは連日、食が進みました。

左:町の食堂でのランチ。豚肉と豆の煮込みのかけご飯。
右:アンタナナリボのホテルでの朝食。牛肉粥とカリッとしたソーセージの組み合わせ

 マダガスカルではスリーホースビール(Three Horse Beer)が人気です。文字通り三頭の馬がラベルに描かれています。1958年創業というペール系のビールは、あっさりとして飲みやすい味で、マダガスカル中で愛飲されています。本社と醸造所がアンツィラベにあります。今は旅客輸送はやめてしまったそうですが、鉄道の駅舎も残っています。

 以前の記事でも紹介したように、アンツィラベは、アンタナナリボからバオバブの並木道があるムルンダバへの中継地点でもありますので、余裕があれば、ただ宿泊するだけでなく、温泉センターや市場の散策など、街歩きも楽しんでみたいものです。

左:アンツィラベの市場は活気があった
右:内陸なので魚は干物で売られている