世界の絶景温泉

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C10 海外温泉旅でのダイバート(目的地外着陸)①

 今回は温泉以外の話題です。天候の悪化や急病人の発生、機体の不良などによって目的地とは異なる空港に着陸するのがダイバートです。ダイバージョン、目的地外着陸、代替着陸とも呼ばれます。慣れない海外で予定外の空港に着陸してしまうのは避けたいところですが、旅を重ねていると、何度も経験します。何が起こったのか、どのように収束するのか。実際にはケースバイケースですが、特に印象的だった体験をいくつかお話しします。

 

(1) イエローストーンを目指して

 今から15年近く前、アメリカのイエローストーン国立公園を初めて訪ねた時のことです。イエローストーンは広大で、周辺の5つの空港からアクセスできますが、この時はワイオミング州のジャクソンホール空港を目指しました。ユタ州の州都ソルトレイクシティからジャクソンホール行きに搭乗したのですが、あいにくの雨で出発が1時間以上遅れました。

 飛行中も雨は止まず、ひどくなるばかり。やがて激しい雷雨に変わり、客席の窓から繰り返し稲妻が見えます。「きれいなものだな」と、この時はのんきに眺めていました。ジャクソンホール空港の近くにはグランドティトン国立公園があり、印象的な山々の稜線が機外に見えるのですが、飛行機はしばらく旋回した後、どんどんと遠ざかっていきます。パイロットが放送で何かを伝えましたが、すごい早口と奇妙な訛りで聞き取れません。

 やがてどこかの空港に到着しました。再びパイロットの放送がありましたが、ここはどこなのか、これからどうなるのか、まったく聞き取れません。間もなく、数人の乗客が飛行機から降りていきます。レンタカーか知人の迎えを期待できるのでしょうか。自分も「ここで降りろ」と言われたら、どうしたらよいのかと不安になります。

左:好天の復路で撮影したジャクソンホール空港のデルタ航空機
右:これも好天の日に撮影したグランドティトン国立公園の風景

 やがて、通路向かいの老紳士が「急な雷雨でアイダホフォール空港に着陸した。雷雨が収まったら、ジャクソンホールに戻るというが、パーティには間に合わない。申し訳ない」と、知人に電話したことで状況が把握できました。なんと、州境を越えて西側のアイダホ州にいるのです。当時はまだスマホがなく、携帯電話が使えるのみ。ソルトレイクシティで乗り継ぎに失敗したり、飛行機が飛ばなかったりした場合に備え、ホテル情報を印刷してきましたが、アイダホ州とは全く想定していませんでした。

 ジャクソンホールへ戻れるというのは安心ですが、新たな心配事が頭をよぎります。到着するのは夜遅くなってしまうが、空港のレンタカー店はまだ開いているのか、アメリカでいきなり夜間の運転となるが無事に宿まで走れるだろうか。それ以前の旅でも幾多のトラブルを経験していたので、レンタカー店と宿のメールアドレスを事前に調べていました。事情を説明するメールを送りましたが、返事はありません。電話で伝えればよいのでしょうが、英語できちんと伝えられるか心配だったので、メールにしました。レンタカー店が閉まっていたらどうするか。田舎の空港だがタクシーはあるのか、なかった場合、空港で朝まで過ごせるのか。次々と心配事が頭をよぎります。

 アイダホフォール空港に2時間30分駐機した後、天候の回復を待ってジャクソンホール空港へと出発しました。22時40分の到着。予定より5時間遅れです。乗り合い式のタクシーがターミナルの外に停まっているのを確認した後で、ハーツレンタカーのカウンターに向かいます。同じ飛行機に乗っていた客がすでに着いていて、窓口は空いていました。ラッキーなことに用意されていたのはトヨタの車。外国のメーカーの車だと、ライトやワイパーの使い方、キーの扱いなど、基本的な操作方法が異なり、戸惑ったことがあるので助かりました。すぐに出発です。

 こんなに遅くなるとは思いませんでしたが、夜間の到着を想定して、空港に近くてわかりやすい場所のモーテルを予約していたのも幸いでした。空港から市内に向かって最初のモーテルなので、空港からは一本道。迷うこともありません。23時半に宿へ着くと、「満室」の表示でしたが、ドアを開けると、「ミスタースズキか」と笑顔で声をかけてくれました。たぶん最後の客だったのでしょう。

 肉体的にも精神的にもひどく疲れて、何も食べずにベッドに倒れこみました。まずはその日のうちに到着できてよかったです。

左:借りたトヨタ車。操作は日本と同じ
右:夜中に着いたモーテル。車は部屋の前に停める

(2) エジプトからの帰国時

 日本からカイロまでの直行便を運航しているエジプト航空はエジプトのみならず、北アフリカや中東地域への乗り継ぎに便利です。スターアライアンスに加盟しているので、全日空(ANA)の特典航空券を利用することもできます。

 夏は暑すぎるので、比較的過ごしやすい1月にエジプトの温泉を巡るためにエジプト航空を利用しました。エジプトで温泉?と思われるかもしれませんが、西方砂漠と呼ばれるエリアでは、水が必要で井戸を掘ったら、水の代わりに湧いてしまった温泉が多くあります。バハレイヤオアシス(バウーティ)を起点に温泉巡りを楽しんだ後、予定通りに帰国の途につきました。

左:エジプト航空の飛行機。尾翼のマークは天空の神ホルス
右:西方砂漠のアインゴマ温泉は砂漠を見渡して入浴できる(拙著参照)

 家族からの連絡で「日本は明日、雨か雪の予報」と聞いていたので、少し心配していましたが、「成田空港には定刻より30分早く到着予定」というアナウンスを聞いて眠り込んでしまいました。目を覚まし、飛行機の位置を示すディスプレイを見てびっくり。東京に向かっていた機体がUターンして、関西方向に向かっているのです。

 まもなく、機内放送があり、「降雪のため、成田に着陸できないので関西空港に向かう」とのこと。本来なら17時30分に成田へ到着予定でしたが、18時30分に関西空港に着陸しました。ここで降ろしてくれれば、列車で東京に戻れる時刻でしたが、「この飛行機はカイロ~関西空港間の免許を持っていないので、旅客扱いはできない。雪の状況が好転したら成田に向かう」とのこと。スマホは今ほどの機能がなかったので、家族にメールで連絡し、成田空港周辺のホテル予約を頼みましたが、すべて満室でした。成田では、すでに出発便の欠航や遅延が続出してたのですから、無理もありません。

 結局、21時過ぎまで待たされ、再び成田に向け離陸。22時30分に成田空港に到着しましたが、鉄道やリムジンバスはすべて運休ですし、いくら待ってもタクシーは1台も来ません。帰宅を断念し、出発階のベンチに向かいました(到着階は非常に混雑していたためです)。高齢者や子供が一緒の場合は、ラウンジなどに案内してくれたようですが、成人男性一人では何の声がけもありません。

 ベンチに座っていると、寝袋とエアマット、ミネラルウォーターが支給されたので、ありがたく頂戴しました。返却不要と言われた寝袋は使い勝手がよく、その後も活用させてもらっています。困ったのは食事です。レストランも売店も営業していませんし、機内で16時頃に食事をしてから何も食べていません。かばんの中にあったカロリーメイト1本をチビチビと食べながら、寝たり起きたりで朝を待ちました(以来、長距離便に乗るときは非常食を欠かさないようにしています)。

 朝5時41分に成田を発つ京成電鉄のアクセス特急に乗り、帰宅して、そのまま出社しました。テレビのニュースでは約4000人が成田空港で足止めになったと伝えていました。

 大変な思いはしましたが、日本国内でのダイバートのため、不安はさほどありませんでした。やはり国内と海外では安心感が違います。今となってはこれもまた旅の思い出となっています。