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C11 海外温泉旅でのダイバート(目的地外着陸)②

(3) エチオピア航空のアジスアベバ乗り継ぎ

 前回はエジプト航空の話をしましたが、北アフリカ以外のアフリカ諸国が目的地の場合、エチオピア航空の利用が便利です。途中でソウルに寄港するものの、成田から首都のアジスアベバまで乗り換えなしで到着できます。スターアライアンスに加盟しているので、全日空(ANA)の特典航空券を利用することもできます。

 前回、紹介した2例は、最終目的地へのフライトがダイバートした場合でしたが、乗り継ぎ空港へのフライトがダイバートした場合、状況はもっと深刻です。乗り継げるのか、乗り継げなかった場合はどうなるのか?  今回はそんな例を紹介します。

左:エチオピア航空のロゴ。アルファベットの下にエチオピア語(アムハラ語)を表記するゲエズ文字が併記されています。
右:アフリカ各国への乗り継ぎに便利なエチオピア航空

 エチオピア航空では朝6~8時ごろにアジスアベバ空港へ世界各地からの便が到着し、8~10時にアフリカ各地への乗り継ぎ便が出発します。夜も同様で、アフリカ各地からアジスアベバに集結した飛行機が再び世界各地へ散っていきます。まさにアフリカ随一のハブ空港です。国際線から国際線への乗り継ぐ際の最短乗り継ぎ時間(MCT)はなんと30分に設定されています。45分程度の乗り継ぎ時間でも通しのチケットが発券されます。飛行機が遅れた場合はボーディングブリッジを使わず、到着した飛行機のタラップ下にバスが待っていて、そのまま次便へと連れて行くそうです。

 アジスアベバを経由してケニア、タンザニア、南アフリカを旅する日本人は少なくありません。これまでに紹介した中国やアメリカと異なり、エチオピアはいったん入国せずに次の国際線に乗り継げるのもメリットです。

 今回は2時間半の乗り継ぎ時間があったので安心と思っていましたが、アジスアベバへの到着直前に突然の機内放送。「濃霧でアジスアベバ空港に着陸できないため、しばらく周囲を旋回します」とのこと。まだこの時は「余裕がある」と思っていました。40分ほど経過したでしょうか。「濃霧の状況が改善しないので、隣国ジブチの空港にダイバートします」と改めての放送がありました。ジブチまでは1時間近くかかります。復路も1時間かかれば、2時間半の乗り継ぎ時間を過ぎてしまいます。とはいえ、どうしようもありませんし、大半の乗客は乗り継ぎ客ですから何とかなるのではないかと思っていました。

 砂漠のような乾いた大地の上を飛行し、ジブチの空港に到着すると、ここでも少し霧がかかっていました。ジブチといえば、紅海・アデン海の海賊対応で自衛隊が駐留していることでも知られます。通路向かいに座っていた頑健な日本人男性が、客室乗務員に「私はジブチが目的なのだが、降りられないだろうか」と尋ねていました。どうやら自衛官のようです。しかし「旅客輸送の免許がないので、ここでは降機できない」との返事でした。自衛官もその返事は予めわかっていたようで、それ以上は尋ねませんでした。もう最終目的地に着いていて、窓外には自衛隊機も見えるというのに、いったんアジスアベバに戻り、再びジブチに戻らなくてはなりません。自分のことは差し置いても、かわいそうに思いましたが、何ともしようがありません。

 私も客室乗務員にマダガスカル行きの乗り継ぎチケットを見せて尋ねてみると、「大丈夫。問題ない」との返事です。ちなみに乗務員はすべての乗客に「大丈夫。問題ない」と笑顔で返事をしていました。給油も済んで、着陸から1時間後に離陸。まだ、ジブチ空港には5機のエチオピア航空機が残っているのが見えました。アジスアベバ空港に到着したのは定刻より3時間30分遅れ。すでにマダガスカル行きの出発時刻を1時間以上過ぎています。タラップを降りると、一人ひとりが行き先を聞かれ、一部の乗客は機体の真下に留まるように指示されていました(おそらくバスで乗り継ぎ便に直送なのでしょう)。その他の人は、私も含め、バスでターミナルビルに向かいます。

 ターミナルビルの入口でも行き先を聞かれ、ナイロビと答えた人は国際線の乗り継ぎゲートへと急ぐようにと言われます。「走れ」「大至急だ」と命令口調です。それ以外の人々は「カウンター前の列に並ぶように」と言われました。チケット交換やホテルバウチャーの配布などを行うカウンターのようです。一日に複数の便がある路線は後続便や他の航空会社の便に振り替えるようですが、マダガスカル行きは一日一便しかありません。WEBで乗り継ぎ便の状況をチェックすると、まだ「遅延」表示のままでした。濃霧のため、着陸だけでなく離陸もできなかったようです。私が並んだ時点では20名ほどの列でしたが、みるみる長くなり、やがて200名を超える長蛇の列になりました。

 時折、係員が「ガーナ、アクラ行きはいるか?」と大声を出しながら列の周りを尋ね歩きます(マイクは使わず、放送もありません)。「アクラだ」と返事をする人がいると、「走れ」と指示されます。遅延便(もしくは臨時便)が間もなく出発することになったというのです。係員の声に反応する人を眺めていると圧倒的に中国人が多いようです。しかも若い人が多く、「ザンビアはいないか」「ナミビアはいるか」といった声掛けに反応しています。旅行者は少ないようなので、これだけ多くの若い中国人がアフリカへ仕事に来ているということなのでしょう。

 もともと、エチオピア航空では乗り継ぎ時間が長い乗客に近隣ホテルを無料で提供するサービスを実施していますが、今日は相当な人数になりそうです。一人ひとりの目的に合わせて、振替便やホテルの手配などをしているので、列はなかなか進みませんが、次第に、自分の番が近づいてきます。「ここで明日の搭乗券とホテルのバウチャーをもらったら、もう今日は終わりだな」と半ばあきらめの気持ちです。

 あと3人で自分の番というところで、英語もエチオピア(アムハラ)語も話せないという少数民族のおばあさんが案内されて、割り込んできました。係りの人と方言で話しますが、なかなか要領を得ません。「これは随分とかかるかも」と思っていたタイミングで、いきなり「マダガスカル」「アンタナナリボいるか」との大声が聞こえました。あわてて返事をすると、いつもの「走れ」という指示でした。国際線の乗り継ぎゲートもセキュリティチェックもスルーで走ります。エスカレータで上の階に進み、8番ゲートを目指すと、すでに搭乗が始まっていて、私が乗ると間もなくドアが閉まりました。乗り継げなかった人や翌日の切符を手にした人もいたのではないかと思いますが、ぎりぎりのところでその日に到着できました。

左:客室内の注意書きも英語とエチオピア語の併記
右:インジェラは発酵させた生地。煮込み肉などを巻いて食べる。酸味が強いが美味でした

 マダガスカルに着いたあと、「これほどの混乱は年に一度あるかないかだ」と言われました。多くの場合、荷物は乗り継げないので翌日以降に届くそうです。そのための書類作成が必要で、入国に時間がかかるそうですが、私は常に荷物を極力少なくして機内持ち込みにしているので、問題ありませんでした。

 このようなハプニングを何度も経験し、血圧は上がるし「もう懲り懲り」と思うこともあります。しかし、目指す温泉に到着すると苦労も心配も忘れてしまいます。だからこそ、旅が続いているのでしょう。