台風シーズンです。台風と温泉に関する思い出を一つ。
1999年9月、マイルをためて交換した無料航空券で大分往復のフライトを予約しました。3泊4日の行程ですが、直前になって2日目の夜に台風が九州に上陸しそうな予報・・・。今のように、インターネットで台風の動きを逐次確認できる時代ではなく、予報の精度も高くありません。キャンセルしたら、いつまとまった休みが取れるかもわかりません。往復のフライトの日は晴れの予報だったので、予定通り出かけました。
2日目の夜、予報通りに台風が大分県を直撃。玖珠川に面した湯の釣温泉「渓仙閣」に宿泊したのですが、夜中に停電となりました。朝、露天風呂に出かけると、周囲には落ち葉や枝が散乱していました。このような状況の中、ふだん通りの朝食が提供されてびっくりです。ガスか釜で炊いたのか、ご飯もふっくらしていて驚きました。トイレの水を流すためのバケツも大量に準備されていました。チェックアウトして駐車場に向かうと、宿泊客の車にくっついた葉っぱや枝を宿の人が落として、きれいにしてくれているところでした。宿の心配りにとても感動したのを覚えています。
宿にそのまま留まっている性分ではないので、出発したものの、まだ停電中で多くの宿や施設は休業しています。町中の信号も消えているので、注意深く運転しなくてはなりません。予定を変更して、九重連山一帯の共同浴場を巡ることにしました。動力を使っている浴場は停電で休止していますが、いくつかの浴場は「通常営業」でした。印象的だったのが、湯坪温泉の「田ノ中の湯」。まさに田んぼの中の温泉ですが、周囲の稲は台風でなぎ倒されていました。青い縁取りの半露天の浴槽が一つあります。源泉からパイプで引いた温泉が浴槽に注ぎ、そのまま一角から排出されるかけ流しの湯。岩重ねの湯口付近には白い析出物が蓄積しています。湯はまさに適温。台風がなければ、「この浴場は動力を一切使っておらず、水で薄めることもなく、湧き出した温泉をそのまま使っているんだなあ」と思うこともなかったと思います。今はもう存在しないようですが、とても印象的な温泉でした。
昼頃には停電も解消されました。今晩泊まるホテルに「予定通り宿泊します」と伝えて、素朴な温泉巡りを続けた後で向かいました。大型の宿ですが、一人泊でも受け入れてくれるので、筋湯温泉の「花草原」を予約していました。到着すると、宿泊客は私一人とのこと。「台風で他のお客様はすべてキャンセルになってしまいました。露天風呂も内風呂もすべて貸切りでお楽しみください。」とにこやかに声をかけてくれました。私だけのために営業してもらうのは恐縮でしたが、気持ちよく対応してくれたので、めったにできない体験を楽しみました。翌朝も含め筋湯温泉の共同浴場4か所を巡りましたが、どこも無人。人気の共同浴場「うたせ湯」すら、入浴客はいませんでした。
最終日は晴れ。スケジュール通りのフライトで東京に戻りました。台風の直撃というアクシデントはあったものの、昔ながらの温泉のありがたみや温泉宿の心配りが強く印象に残った旅として、今でもはっきりと覚えています。