世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

C7 日本で知られていない温泉をどうやって探すのか②

(4) その国の言葉で検索する

 前回に続き、日本では知られていない温泉の探し方を紹介します。日本の温泉情報が必要ならば、日本語で探すのが一番なのは言うまでもないと思います。同じように、調べたい国の言葉で検索すると、日本では無名の温泉も含めて、最も多くの情報を得られます。

 例えば、拙著の特集で採り上げたアルメニアの温泉を調べてみます。翻訳ソフトを使って、英語でArmenia Hot Springs と入力し、アルメニア語に翻訳するとՀայաստանի տաք աղբյուրներ と表示されます。アルメニアは独自の文字を持つ国ですが、まったく読めません。ただ、読めなくてもアルメニア語をコピーして検索すれば、魅力的な温泉の写真が表示されます。今度はそのサイトを開いて、翻訳機能を用いて英語か日本語に再翻訳してみると、その温泉の情報が手に入れられます。

 拙著で紹介したジェルムーク(Jermuk)や当時はアルメニアの勢力圏にあったズアル(Zuar)の温泉は、このようにして発見しました。アルメニアの南部一帯は入浴するのに適温の噴泉が随所で湧いている世界的にも珍しい地域です。なお、ナゴルノカラバフの温泉で述べたように、ズアル温泉のあったキャルバジャル地方は2020年の戦争でアゼルバイジャンが奪回しましたが、私が訪れた2016年はアルメニアからしか行けませんでした。

左:簡潔的に噴泉が湧くジェルムークの野湯(アルメニア)
右:さらに高温で爆発的な噴泉のズアル温泉(アゼルバイジャン)

 なお、アルメニア語で表示されたWEBサイトを英語か日本語に翻訳して理解したとしても、アルメニア語のままで印刷して持参するのがお薦めです。温泉の場所がわからずに地元の人に尋ねる際、母国語で書いてある方が熱心に読んでくれます。日本人が読めなくても関係ないのです。

 また、検索時にはHot Spring とHot Springsの違いに注意してください。前者は「暑い春」という意味にもなってしまいます。Armenia Hot SpringsではなくArmenia Hot Springと入力して、アルメニア語に変換すると、Հայաստան տաք գարունとなります。この言葉で検索すると、春の花らしき写真がずらりと並んでしまいます。日本人はあまり意識しませんが、sの有無で大きな違いがあるのです。Hot Springsでうまく検索できない時は Thermal Springs、Thermal Water、Geothermal Springs、Natural Hot Springsと言葉を変えて変換してみるとうまくいく場合もあります。

 拙著で紹介した温泉のうち、ジェルムーク、ズアルの他に、ヴァニ(ジョージア)、ティンギラジャ(インドネシア)、ラウデブッデブッ(インドネシア)、プロサリ(インドネシア)、ジャンカウェ(チリ)、グアカ(グアテマラ)などが現地語で検索して見つけた温泉です。ジョージアやアルメニアなどのコーカサス地方、インドネシアのスマトラ島、チリ南部のパタゴニア地方などは、いずれも日本人があまり訪れない地域です。このため、日本人におる温泉ブログは少ないのですが、魅力的な温泉写真を現地語サイトで次々と発見して、行くことを決めました。

 中国語の場合も同様です。雲南省の騰衝市は中国でも最大級の地熱地帯です。日本ではあまり知られていませんが、中国では有名です。日本語で「騰衝市」「温泉」と検索するより、中国語(簡体字)で「腾冲市」「温泉」と検索すると、40倍近い情報がヒットします。

左:ヴァニ温泉のあまりにも美しい濁り湯(ジョージア)
右:スマトラ島ティンギラジャ温泉の石灰棚(インドネシア)
左:同じくスマトラのラウデブッデブッ温泉(インドネシア)
右:地球が丸く見えるジャンカウェ温泉の露天風呂(チリ)

(5) 現地で探す

 以上、旅発つ前に温泉情報をどうやって探すかについて紹介しましたが、実際には現地で偶然見つかった温泉も多くあります。ヴァニ温泉を探していて、地元の人に「近くに他の温泉がないか」と尋ねて見つけたのが、マニアなら狂喜するオンボロ施設のアマグレバ温泉(ジョージア)、パムッカレの近くで個室浴場が並ぶギョレメズリの温泉街で教えてもらったのがギョレメズリの新温泉です(トルコ)。新しい大型温泉リゾート施設の開発がとん挫して、野湯化しつつある状況でした。また、10年ほど前には、一枚の写真も検索できませんでしたが、ムンバイの郊外のタナサ(タンサ)川流域で地元の人に尋ねて次々と見つかったアクロリとニンボリ(インド)も同様です。まさに芋づる式に温泉が見つかって、大感動の日でした。(4)で述べたように、現地語の印刷物を見せて、「この近くに他にも温泉がないか」と尋ねてみるのが鉄則です。

左:ヴァニ近くのアマグレバの掘立て小屋温泉(ジョージア)
右:温泉リゾート開発が中断したままのギョレメズリ(トルコ)
左:ヒンドゥ教寺院の門前に設けられたアクロリ温泉(インド)
右:写真の手前から温泉が流れ込むニンボリ温泉の湯川(インド)

 なお、日本は世界で最も地図が発達した国のようです(先日、NHKの番組クールジャパンでも採り上げていました)。たいていの日本人は空から俯瞰した視点での地図に慣れています(カーナビやグーグルマップも俯瞰式が代表的です)。ただ、世界各地の田舎を訪れると、俯瞰式の地図に慣れていない人が多く、こちらが地図を見せても読み取れません。その場合には、地図を自分で解釈して、「二つ目の交差点を左に曲がればよいのか」「温泉への脇道に何か目印があるか」といった質問をするのが有力です。「鳥の目」ではだめで、「人の目」の地図が必要なのです。また、専用車をチャーターした際は、ドライバーにすべての現地語資料を見せて、「他に温泉がないか」と尋ねると、たいていは一つ二つの温泉が見つかります。

 

 そこまでして温泉を探して見たいと思ってくれる人がいるかどうかはわかりませんが、事前に何の情報もなかった温泉にたどり着いたときの幸福感は計り知れないものがあります。ちなみに、私のiPhoneでは、これまでに訪れた野湯などをまとめて、AIが「探検」というラベルを勝手に付けてくれました。