世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

A9 温泉のガイドブック⑦ 台湾2 ~野渓温泉~

 前回に引き続き、台湾の温泉ガイドブックを紹介します。日本では自然の中に自噴する温泉で、商業利用されていない「野湯」が人気です。野湯専門のガイドブックもあれば、新しい野湯探しを目的としたWEBサイトも数多くあります。島国の台湾では高山が背骨のように縦貫していることもあって、山のいで湯が豊富で、野湯もたくさんあります。台湾では野湯を「野渓温泉」と呼び、専門のガイドブックが多数出版されています。本格的な山歩きや沢登りが必要で、専門家の同行が必要な温泉から、10分程度のハイキングで行ける温泉まで、難易度もさまざまです。

 ただ、台湾には短い距離で一気に下る急峻な川が多いので、豪雨や台風のたびに野渓温泉は破壊され、その都度復旧を繰り返しています。このため、悪天候だとアクセスできませんし、現状がどうなのかを確認してから訪れるのがよいでしょう。野渓温泉との出会いはまさに一期一会。20年前を偲んで、思い出深い野渓温泉を紹介します。

野渓温泉を扱った書籍の例。現地までの地図が充実した書籍が多い。

(1) 花蓮(ホアーリエン)県の文山(ウェンシャン)温泉

 当時、最も有名な野渓温泉はまちがいなく文山温泉でした。温泉は、大理石の断崖絶壁が10km以上にも渡って続く台湾有数の景勝地「太魯閣(タイルーグー、タロコ)渓谷」の奥にあります。途中までは整備された階段を下り、温泉橋という名の吊り橋を渡って、岩盤をくりぬいて作られた急な石段を一気に下れば、温泉に到着です。天然の洞窟のような地形を利用した半ドーム状の空間に、3つの大きな浴槽が並んでいます。川の下流側から温度が高め、適温、ぬるめの順です。少し白濁して硫黄臭を感じられる名湯でした。浴槽の湯はそのまま川に注ぎ込んでいて、河原からも温泉が湧いているので、石囲いの手製の露天風呂が河原に点在しています。まさに台湾ナンバーワンの野渓温泉でしたが、その後の水害で浴槽はたびたび埋まり、時に復旧されるものの、往時の状況は取り戻せていません。立ち入り禁止となることも多く、幻の野渓温泉となってしまうかもしれません。

左:吊り橋から見下ろした文山温泉。白濁した浴槽がみえる
右:川原からも湯が湧き、即席の露天風呂を楽しむ人も多い

(2) 新北(シンペイ)市の烏来(ウーライ)温泉

 台北の南、約30kmに位置する烏来温泉は、台北からの日帰り利用も可能です。南勢渓と桶後渓という二つの川が交わる地点に開けた烏来は少数民族のタイヤル族の地。そもそもウーライとは、タイヤル族の言葉で温泉を意味する単語とのことです。温泉街の両側には大小、さまざまな宿が軒を連ね、大半の宿では日帰り入浴が可能。しばらく進むと、24時間いつでも無料で利用できる名物の露天風呂(露天公共浴池)があります。川沿いにいくつもの露天浴槽が並んでおり、水着姿の老若男女が好みの湯温の浴槽にのんびりと浸かっています。すぐ隣を南勢渓が流れているので、多くの人が温まった身体を川で冷ましています。長らく烏来温泉の名物でしたが、水利法に違反するとして2017年に撤去されてしまったそうで、残念でなりません。

今は撤去されてしまった無料の露天風呂。

(3) 新北(シンペイ)市の八煙(パーイェン)温泉

 ここも台北から車で1時間少しと訪れやすい場所にあります。台北の北東、温泉が点在する陽明山麓の八煙温泉会館の脇から山道を20分ほど歩いて行きます。落石や土砂崩れの危険から進入禁止の看板がありますが、みな気にせず進んでいきます。台湾人に聞くと、「事故が起きても当局に責任はないと言っているだけで、自己責任で行くのは問題ない」との返事。とはいえ、台湾人のグループが通るときに一緒に通過したほうが賢明です。

 渓流沿いに白濁した大きな露天浴槽が2つ並んでいます。手前がぬるめで、奥側は適温です。右手奥の滝が源泉で、先人の置いたビニールパイプを通して露天浴槽に豊富な温泉が注がれています。舐めてみると、酸味がとても強い湯です。服には硫黄臭が付着してしまうので、帰国日の利用は避けた方がよいかもしれません。温泉の左手にも滝がありますが、これは水。温泉と川遊びの温冷交互浴を楽しむ人々で、週末は大賑わいとなるようです。今は立入り規制がさらに厳しいようですが、20年前は多くの人が訪れ、素晴らしい野湯を体験できました。

左:立入り禁止の柵があるが、右側が通り抜けられるようになっていた
右:見事に白濁した硫黄泉。晴れた週末はイモ洗い状態となるという

(4) 高雄(カオション)県の多納(トゥオナア)温泉

 多納温泉も人気のある野渓温泉でした。高雄県の他の温泉とは離れてぽつんと存在するため、アクセスは少し面倒でした。茂林郷風景区の入口ゲートで環境美化・清潔維持費を支払って山岳地帯に入ると、周囲はどんどんと山深くなってきます。少数民族のルカイ族の暮らす多納集落を過ぎて、緩やかな坂を下ったところで道は行き止まりとなります。ここが多納温泉の入口です。

 右手に見える吊り橋を渡ると、山肌が迫る渓流の傍らに簡素な仕切りで5つに区分された露天風呂を見下ろすことできます。ただし、入浴するには吊り橋を渡らないで、橋の手前の右手にある坂道を降りていく必要があります。一段一段が非常に高くて降りにくい階段を河原まで降り切ると、露天風呂に到着です。無色透明で無味無臭の湯がコンクリート浴槽から溢れています。場所によって微妙に温度が異なりますが、どこも適温です。浴槽の少し上流の川底には温泉が湧き出る場所がいくつかあり、湯溜まりで入浴することも可能です。多納温泉は2009年の水害で破壊され、高台に移されましたが、再びの水害で破壊。源泉が埋まってしまい、復旧の予定ははっきりしないそうです。

左:温泉渓という名の河畔に湧く素朴な露天風呂だった
右:川原からも温泉が湧き、ぬるめの湯を楽しめた

 前回紹介したgooブログの「温泉逍遥」は野渓温泉についての紹介も多く、行き方も詳しく説明されています。ご興味のある方はぜひご参照ください。