世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

A8 温泉のガイドブック⑥ 台湾1 ~ひなびた宿・浴場~

 今回、紹介するのは台湾です。海外でこれほど多くの種類の温泉本が販売されている国はないと思います。台湾を訪れた際に、駅や町の書店に立ち寄れば、温泉に関する書籍や雑誌は簡単に見つかります。最近はWEB情報や電子書籍の普及で、書籍の種類は減少傾向ですが、それでも温泉の本がなくなったわけではありません。私が2007年に「湯けむり台湾紀行(まどか出版、現在は絶版)」を出版した際も、台湾で見つけた温泉ガイドブックがとても参考になりました。

左:台湾の温泉ガイドブックの一例:地域別に分冊になっていることも多い
右:ずばり「台湾温泉地図」:台湾のガイドブックは地図が充実している

 台湾で公に使われている言葉は中国の標準語(普通話)と同じです。ただ、中国では画数を減らした「簡体字」を用いているのに対し、台湾は元のままの「繁体字」を使っています。繁体字は日本の旧字体と共通のものが多いので、年配の人なら読むのに苦労しないかもしれません。たとえば、「医療→醫療」「身体→身體」「台湾→台灣」「地図→地圖」などです。もちろん、中国語がわからなければ本の内容は理解できませんが、温泉の名前、泉温、住所、行き方、ホテルの有無、入浴料金などの基本情報は、だいたい把握できます。

 台湾は九州ほどの国土に200を超える温泉地があります。環太平洋火山帯に位置するため、火山性の濃厚な温泉も数多く湧いています。私が台湾の温泉を集中的に訪ねた20年前には、素朴な共同浴場や宿がたくさん残っていました。日本統治時代の影響もあって、台湾の温泉では男女別に裸で入浴する浴室が中心でした。ただ、他の人との同浴を好まない人や家族一緒に入浴したい人のために個室浴場(貸切り風呂)を備えた施設も多くありました。

 21世紀に入り、台湾の経済成長が進むと、西洋風のホテルスタイルの温泉宿が増え、男女一緒に水着で入浴する露天風呂が人気になりました。いくつもの露天風呂が点在し、打たせ湯やジャグジーなどを備えたレジャー温泉は「SPA(水療施設)」と呼ばれています。今では、裸で入浴する浴室は施設の隅に追いやられ、SPAが全盛です。日本で発行されているガイドブックに、「台湾の温泉は男女混浴で水着着用が原則」と紹介されているのを読むと、隔世の感があります。

 日本の有名宿や高級ホテルチェーンも台湾の温泉に進出し、日本と変わらない快適な滞在を楽しめるようになってきました。家族連れやカップルが台湾旅行を楽しむ一環で滞在するには素晴らしい環境ですが、昔ながらの温泉を愛する「温泉バカ」には少し寂しい気もします。

 以下、20年前の雰囲気がわかる台湾の温泉をいくつか紹介します。

 

① 宜蘭(イーラン)県の礁渓(ジャオシー)温泉

 「焼溝(公溝)」という名の共同浴場:町の中を流れる川自体が温泉で、川に壁と屋根を付けただけの素朴な湯小屋。男性専用。浴槽の下流側では洗濯や歯磨きをしている人もいました。あまりの豪快さに驚きましたが今はなく、立派な温泉公園に生まれ変わりました。

② 南投(ナントウ)県の紅香(ホンシャン)温泉

 当時は少数民族保護エリアで、山地管制区とされ、外国人は自由に立ち入りできませんでした。日本語を話す古老が紅香集落出身ということで、同行してくれることになり、入浴できた思い出深い温泉です。トタン屋根の掘立て小屋の素朴な浴場は男女別ですが、境界の壁は半分崩落していました。脇には見晴らしの良い露天風呂があり、夜になると、男女混浴で利用するとの話でした。

③ 花蓮(ホアーリエン)県の紅葉(ホンイエ)温泉

 日本統治時代の1919年に開設された紅葉温泉は一軒宿。昭和時代の初期に建てられたという母屋は、赤い屋根にクリーム色の壁、青緑色の窓枠と鮮やかな色彩ですが、年月を経たせいか落ち着いた雰囲気を醸し出していました。部屋は畳敷きの和室で、浴室には内湯と露天風呂がありましたが、残念ながら休業中とのことです。

 台湾の温泉については、gooブログの「温泉逍遥」に他の追随を許さない詳しい紹介があり、私も参考にしています。ご興味のある方はご参照ください。