世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

B3 霧島の温泉① (金湯、銀湯、鉾投温泉)

 鹿児島県の霧島地方は魅力的な温泉の集中地帯です。大小さまざまな人気温泉が軒を連ねていますが、中には忘れられたような温泉があります。

 まずは「金湯」。今は廃墟の湯として知られ、ブログなどで訪問記が散見されますが、1998年には健在でした。霧島の中心部から万膳地区へと北上し、野之湯温泉(現:旅の湯、かつての名は常磐温泉)の直前の広場で停車。300メートルほど細道をだらだらと上ると、下堂園さんのお宅へ到着します。ご主人は薪用の木を切っていて奥さんは切り干し大根の加工中。にほん昔話のような光景に戸惑いましたが、入浴をお願いすると快く返事をくださいました。湯小屋は右手奥にあります。浴室は男女別で同型。コンクリート造りの素朴な正方形の浴槽に適温の湯が溢れています。硫黄臭のする透明な湯で黒い湯の華が浮いていました。温泉は湯小屋の奥に自然湧出しており、そこからパイプで引いている。排水溝近くの地面には小さな湧出口もいくつかあり、プクプクとお湯が湧いていた。金次郎さんが発見したので金湯の名があるとのことでした。

 次は「銀湯」。野之湯温泉から北上し大霧地熱発電所手前で右左折を繰り返し、日添林道銀湯線に入ります。「山の神」と赤鳥居に記された小さな祠のある場所で車を停めて、祠の前の道を進むと開けた場所に出ました。至るところから噴気が生じていますが、泥状のボッケや噴気だけの場所が大半。70℃超の温泉が湧く場所もありますが、足場が不安定で、間違えて踏み抜くと大やけどをしかねません。このときは、先人がビニールシートを張ってパイプで導湯してくれていたので、入浴することができました。感謝です。強い硫黄臭の泥湯で、身体に付着した臭いが数日は取れません。なお、銀湯の由来は不明ですが、鉱泥が銀色に見えるのと、金湯との対比で名付けたのではないかと言われています。

 最後は「鉾投温泉」。鉾投林道に入り1kmほど行くと左手に大きな堰堤があるのでそこに車を停めます。堰堤脇を登り、あとは川を遡るように登山道を歩きます。木道が敷設された区間もあり、30分ほど歩き続けると、木々の隙間が開き、ススキの穂が茂る場所に着きます。あたりには野面積みの石垣があり、屋根瓦が散乱しています。今は深い山の中ですが、戦後の一時期は戦災孤児のための養育施設があったというので、その遺構かもしれません。さらに上り続けると、一人入ればいっぱいとなる小さなポリ浴槽が二つ並んで置かれていました。しかもうち一つには近くの源泉から引いた湯がかけ流しで溜まっていて、入浴を楽しむことができました。ここまでポリ浴槽を運んでくれた人への感謝の入湯でした。

 金湯、銀湯、鉾投の各温泉は、今でも廃墟湯や野湯を探す若者のブログで名前を見かけることがあります。昔を偲んだり想像したり議論を楽しんでいますが、25年前の姿を知るものとしてぜひ紹介しておきたいと思いました。