世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

B2 口永良部島の温泉(掛場湯)

 口永良部島(くちのえらぶじま)は鹿児島県の屋久島の西12キロに浮かぶ小さな火山島です。屋久島を訪れる人は多くても、口永良部島まで足を延ばす人はほとんどいません。屋久島からは日に1便のフェリーがあるのみ。屋久島を経由しないと行けない、いわゆる「離島の離島」です。最近は火山活動が活発でときどきニュースで報じられています。

 今から30年前の1993年、口永良部島の温泉を訪れました。西之湯、寝待、湯向という3つの温泉はよく知られていますが、このほかに「掛場湯(かかりばゆ)」という温泉があるという情報に興味を持っていました。

口永良部島の温泉(Google Map より)

 島に着いて宿で車を借りて4つの温泉を回ってみました。島にはマニュアル車しかなく、ハンドルを10度右に回転した状態でまっすぐに走るという代物でした。

① 西之湯

 港のある本村(ほんむら)から北へ2キロ弱の西之湯は、珍しい構造をしています。浴槽の脇に二段ベッドのような棚状の寝床があり、ここで休憩しながら入浴を繰り返します。その後、仕切りが設けられ浴槽は男女別に区切られるようになりましたが、当時は区別がありませんでした。浴舎は改装されたり、台風で破壊されたりして、今は新しい浴室になっています。往時の貴重な写真です。

左:海沿いの隙間に建つ湯小屋は2018年9月の台風24号で壊されてしまった
右:浴槽の上に休憩用の棚がある。他では見ない構造だ

② 寝待温泉

 西之湯から東へ10キロの寝待(ねまち)集落。急坂を降りると正面に巨大な立神岩が聳えています。平屋建ての湯治用の小屋が並ぶ先の海岸は岩や流木で埋まっています。共同浴場はコンクリート製で岩場の海岸にへばりつくように建っています。浴槽は「日」の字型の2槽。奥が源泉で熱め。手前も42℃以上あります。口永良部島で唯一の白濁した硫黄泉です。立神岩の周辺の海からも源泉が湧き、海が白っぽく濁っていました。その後、台風の影響で閉鎖され、いまも落石等の危険があるため利用禁止になっていますが、湯は湧いているようです。

左:立神岩のすぐわきに寝待温泉の湯小屋がある
右:寝待集落は湯治用の小屋が並ぶだけ
左:混浴の内湯は奥の方が熱め
右:立神岩の周囲からも温泉が湧き、海が白濁している

③ 湯向温泉

 西之湯温泉から寝待に立ち寄らずに周遊道路をそのまま東に10キロほど進みます。どん詰まりにあるのが湯向(ゆむぎ)温泉。平屋建てで男女別浴の浴室があります。当時は最も設備の整った浴場でした。硫黄臭の漂う透明な湯で、白い湯の華が大量に浮かんでいました。唯一海沿いでないので、台風の被害は受けにくいようです。

④ 掛場湯温泉

 本村から南へ2キロの向江浜は島津藩の密貿易港だったといわれています。海岸を掘ると茶褐色の湯が湧き、船着き場を意味する掛場(かかりば)湯と呼ばれているとの情報があり探してみました。海岸は岩や流木で埋まっていましたが、一角に朽ち果てそうな湯小屋を発見。鉄分を含む茶褐色の濁り湯で、文献通りでした。現状についての記述はなく不明です。

 以上、30年前の島の温泉の姿をお伝えしました。口永良部島では、白濁した硫黄泉、鉄系の茶濁湯、白い湯の華が舞う透明な硫黄泉など多彩な泉質を楽しめます。今では港近くに公共の本村温泉が開設されています。(1993年入湯)