世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

A7 温泉のガイドブック⑤ カナダ

 今回はカナダの温泉ガイドブックHot Springs of Western Canada -A Complete Guide-(西カナダの温泉 完全ガイド)を紹介します。アメリカと同じく、太平洋岸に温泉が集中しているため、「西カナダ」と題しています。版を重ねた有名な本でしたが、今は中古本を探すしかありません。写真や地図も豊富で「完全ガイド」の名にふさわしく、設備の整ったホテルから、人里離れた野湯まで様々なタイプの温泉が紹介されています。雄大なカナダでは道路が整備されておらず、水上飛行機やヘリコプター、ボートなどのチャーターが必要な温泉も多く紹介されています。

 例えば、バンクーバーの北、1400キロにあるナハニ国立公園。広大な自然保護区で世界自然遺産に登録され、一般人の入園は厳しく制限されています。特別な許可をとり、水上飛行機やボートを乗り継ぎ、何泊も野営しないとたどり着けません。公園内には魅力的な温泉が点在し、中でも巨大な石灰棚は迫力満点です。行きたいと思ってもなかなか行けませんが、2020年10月20日にTBS系列の「世界遺産」の番組で、ナハニ国立公園を採り上げました。動画で見る石灰棚はまさに感動ものでした。

左:ウッドワース氏によるカナダの温泉本
右:TBS「世界遺産」で紹介されたナハニ国立公園の石灰棚
https://www.tbs.co.jp/heritage/archive/20221030/

 さすがにナハニへは行けませんでしたが、この本で見つけた「ホットスプリングアイランド(以下、温泉島)」を訪ねてみました。バンクーバーの北西850キロ。太平洋に浮かぶハイダグワイ(旧名:クイーンシャーロット諸島)は大小150ほどの島々から成り立っています。メインは北のグレアム島と南のモレスビー島で、温泉島はモレスビー島の東の海に位置する小さな島です(下記の地図参照)。諸島の中心地、クイーンシャーロットシティ(以下、QCC)で水上飛行機を借りるか、100キロ近くカヌーを漕いで行くしかありません。どうしても行ってみたかったので、8万円を支払い、水上飛行機を予約しました。「満潮時も干潮時も島の周辺には着水できず、風が吹くとすぐに欠航になる」との説明を受けました。

左:ハイダグワイの全体図、右上:空港とQCCの位置関係
右下:温泉島と隣のハウス島の位置関係、すべてGoogle Mapより

 日本からカナダ西部のバンクーバー空港まで飛んで国内線に乗り換え、ハイダグワイの玄関口、サンドスピット空港を目指します。モレスビー島に位置するサンドスピットでレンタカーを借り、フェリーで海を横断してグレアム島のQCCに向かいます。一時間もかからずに到着してシンプルなロッジにチェックイン。すぐに真向いの水上飛行機発着場に向かいます。

 ちょうど潮位も天候もよく、すぐに出発なのです。6人乗りの小型飛行機で40分のフライト。多島海の眺めが美しいです。パイロット以外に5人乗れますが、私は1人旅。1人でも5人でもチャーター代金は同じなので、「私と一緒に出掛けて温泉島で写真のモデルになってくれる人はいないか」と予約の段階で尋ねてみました。すると、「この島に住んでいても行ったことがない人はたくさんいるので、希望者はすぐにみつかるよ」との返事。けっきょく、女性4名が同乗してくれました。

左:この小さな飛行機が温泉島へ連れて行ってくれる
右:温泉島の全景。左下の岩場付近に温泉が集中している

温泉島といっても、温泉が湧くのは島の南西岸のみ。しかし、飛行機はハウス島との間の北東岸にしか着水できないので、島を横断して温泉に向かう必要があります。苔むした樹林帯を進み、10分ほどで視界が開けると温泉エリアに到着です。26か所の源泉があり、湯温は32℃から77℃とのことですが、入浴できるのは10か所ほどです。メインの露天風呂は二つ。岩礁地帯を挟んで東西2箇所に、それぞれ20人程度が入浴できる岩風呂があります。同乗の女性がワインとおつまみを持ってきたので、一緒に飲んで語らいつつ、あっという間の2時間を過ごしました。島へのアクセスは大変で費用もかかりますが、「行ってよかった」と思う温泉でした。

左:メインの露天風呂。オーシャンビューの絶景を楽しめる
右:同乗した島の女性とパイロットと温泉に浸かる

 QCCで一泊し、翌日は先住民のハイダ族の文化に触れられる施設などを見学する予定でした。だが目が覚めると、いきなりの大雨で、強風が吹いています。宿の人の話では、「空港のあるモレスビー島へのフェリーも欠航しているが、午後のフライト直前のフェリーは運航するはずだ」とのこと。一日ずれていたら、温泉島へは行けなかったでしょう。いつも私を導いてくれる「温泉の神」に感謝です。話の通り、フェリーの運航は再開し、空港に到着。空港はまっすぐ歩けないほどの強風ですが、地元の人の話では、「いつも同じ方向に風が吹くので、強風でも飛ぶ」との話。よろけながら飛行機まで歩き、タラップを上って搭乗。無事、離陸した時にはほっとしました。

 なお、私が温泉島を訪れた直後の2012年10月にマグニチュード7.8の地震が生じ、温泉の湧出が止まってしまいました。工事を経て再開したというが、コロナ禍の影響もあり、現状はよくわかりません。もし行ってみたいと思う人がいれば(いるかどうかわかりませんが)、最新の情報を確認してください。