世界の絶景温泉

世界の見知らぬ温泉を探して旅しています

A37 ニューデリーから日帰りできるソーナ温泉 ―高僧が杖で地面を叩くと湧きだした―


 インドで温泉?と思われるかもしれませんが、広い国土の至る所で温泉が湧いています。拙著「ほぼ本邦初紹介!世界の絶景温泉」では南部、ムンバイ周辺のアクロリ、ニンボリという素朴な温泉を、二冊目の「さあ、海外旅行で温泉へ行こう」では、北部のヒマーチャル・プラデシュ州にあるインド最大の温泉郷マニカランを紹介しました。加えて、このブログでは、温泉のあるホテルとしてタッタパニ温泉に触れました。

 今回は首都のニューデリーに一番近く、日帰り可能なソーナ温泉(Sohna)の紹介です。

 

温泉寺院の門前町を歩く

 温泉はハリヤナ州のタクール・ワラ(Haryana, Thakur Wara)にあります。首都の玄関口、インディラ・ガンジー国際空港の南40キロに位置し、渋滞がなければ1時間ほどで着きます。帰国前の最終日に車をチャーターして出かけてみました。なお、5月に訪れたのですが、気温は連日40℃前後の暑さでした。

 ソーナの旧市街に着くと、車が入れないような路地が続きます。500年ほど前、高僧が杖で地面を叩くと温泉が湧きだしたそうで、日本の弘法大師さながらの伝説です。温泉の治癒効果は広く知られ、人々はここにシヴァ神を祀る寺院を建てました。車を降りて門前町を歩くと、肉屋、八百屋、菓子屋、洋品店など地元の人向けの店が雑然と並んでいます。旧市街の外には近代的な街並みが広がっていますが、ここだけは時間が止まっているかのような佇まいです。

左:かろうじてバイクが通れる門前町。温泉へ行くには町中を抜けていく
右:生活感溢れる路地が次々と現れる
左:寺院を兼ねた温泉の入り口
右:門をくぐると温泉の池(手前)があるが、ここは入浴用でないとのこと

広めの個室風呂でも120円と安い

 寺院の入口で靴を預け、門をくぐって中に入ると、二つの露天風呂が並んでいます。一方は空でしたが、もう一つには灰緑色に濁った湯が湛えられています。脇の湯口から注ぐ温泉は40℃弱の適温ですが、入浴する場所ではないとのこと。入浴するには男女別の共同浴場か個室風呂かを選んで、右手のチケット売り場で代金を支払います。

 男性浴場には若い男子が4人。声をかけて写真を撮らせてもらい個室風呂に向かいます。2人用の小さな個室から、10人は入れる大きな個室まで広さはさまざま。どの部屋も、少し黄色く濁った湯は溜めた浴槽があり、膝高くらいの深さです。入浴時間は20分と決められていますが、窓がなく蒸し暑い個室なので、そのくらいの時間で十分です。短い入浴でしたが、浴後はすっきりします。

左:男女別の共同浴場。地元の青年4人が入浴中だったので、声をかけて写真を撮らせてもらった
右:広い個室でも日本円で120円程度だったので、この個室を利用した

 浴場の裏手に源泉槽があります。シヴァ神の壁画の下に穴が開いていて中を見ることができます。源泉は50℃以上で、顔を近づけると蒸気でムッとします。さらに奥に進むとシヴァ神を祀るきらびやかな神殿がありました。シヴァ神像の前では、インド人が厳かな表情で祈りを捧げています。日本ほど温泉が一般的でないインドでは、そのありがたみもひとしおで、温泉のある場所に寺院が建てられることが多いようです。ニューデリー近郊にこのような歴史ある温泉があるのはあまり知られておらず、情報も少なかったので、予想以上に素晴らしい温泉を満喫しました。

左:中央の穴の中で源泉が湧いている。記念写真を撮る家族が絶えない
右:中を覗くとこんな感じ。奥の穴から湯が湧き、手前の池を満たしている

 帰りも1時間ほどかけてニューデリーに戻ります。筆者はこれまで3回に渡ってインドを旅して、20か所ほどの温泉を訪ねてきました。温泉の珍しさ、不思議さ、ありがたさは日本以上に強く感じられているようで、ヒンドゥー教やシーク教の寺院と隣接した温泉が多くありました。

左:ニューデリーの下町の雑踏。以下にもインドらしい風景だ
右:あまり知られていないが、ニューデリーの市内には3つの世界がある。写真はタージマハルの原型になったといわれるフマユーン廟