新刊「さあ、海外旅行で温泉へ行こう」では6つのエリアを特集で採り上げました。オーロラ観光で人気のある極北の温泉大国、アイスランドもその一つです。世界最大級の露天風呂ブルーラグーンをはじめ、おすすめの温泉を紹介しましたが、紙数の都合からいくつかの温泉を外さなくてはなりませんでした。その一つがここで紹介するフルン温泉(Hrun Hot Springs, Hrunalaug)です。田園地帯にポツンと湧く素朴な露天風呂で、誰でも無料で利用できます。このブログでは、アイスランドの温泉ガイドブックを紹介した際に少しだけフルン温泉に触れましたが、今回は詳しく紹介します。
【ストロックル間欠泉のすぐ近くにある】
首都レイキャビクから東へ110キロにあるストロックル間欠泉はアイスランド観光の目玉です。6~7分間隔で噴出するため、観光客も見学しやすいのです。近くにあるゲイシールという名の間欠泉は、間欠泉(ガイザー)という英単語の語源となるほど昔から知られています。60メートル近くの高さまで噴出することがある巨大な間欠泉ですが、噴出間隔は不定期で、ちょうどよいタイミングで訪れるのはかなり難しいようです。このため、確実に見学できるストロックルが今では一番人気なのです。
ここから南へ30キロ。フルジールという村の郊外にフルン温泉はあります。周囲は北海道の美瑛のように美しい丘陵地。丘の上に小さな教会と数軒の家が建っています。しかし、温泉を示す案内看板はまったく見当たりません。購入済みの温泉ガイドブックに記されていたGPS情報を頼りにレンタカーを走らせるのですが、たどり着けません。周りは羊の放牧場だらけで、「道」がなく、何度も柵で行き止まってしまいます。今はわかりませんが、当時はこんな小さな温泉など、カーナビにもスマホの地図にも載っていませんでした。
【フルン温泉は道路から見えない】
未舗装路をさまよううち、左手に車が2台停まっている広場がありました。直感的に「ここに違いない」と思いましたが、温泉は見えません。長年の感から「こちらだろう」という方向に歩いていくと、戻ってくる人とすれ違いました。話しかけると「その先に温泉がある」との返事。間違いないようです。まもなく小高い丘の向こうに小屋らしきものが見えます。喜び勇んで小さな川を渡り、丘を越えると、フルン温泉に到着です。
コンクリートで両側の壁を作り、トタン屋根で覆って小屋にしただけのシンプルな造形です。アイスランドの冬は厳しいので、断熱性を高めるために、屋根を芝で覆った「芝葺き屋根(ターフハウス)」という伝統家屋が以前は多くありましたが、ここも屋根の一部が芝で覆われていました。小屋の中から湧きだす温泉は、手前に設けられたコンクリート浴槽を満たし、溢れた湯は小川となって流れていきます。湯は適温で、肩まで浸かれる深さがあります。透明で無味無臭の良質な湯です。浸かるのにちょうどいい温泉が自然に湧き出しているのです。小屋の裏側に回ると、丘の斜面に石組みの露天風呂がありました。フランスから来たという5人家族が入浴中。少しぬるめで、体温程度の湯温でした。周囲に人工的な造形物は一切なく、一面の緑の中で浸かれる素晴らしい温泉ですが、家族水入らずの湯に同浴するのははばかられ、手前の小屋の湯を堪能しました。
なお、フルンからフルジールに戻る途中、猛烈な噴煙とともに温泉が湧いている場所があります。今は一帯が改装され、シークレットラグーンという快適な温泉施設がオープンしています。レンタカーを利用するか、首都レイキャビクで専用車をチャーターすれば、ストロックル、フルン、シークレットラグーンを日帰りで訪れることが可能です。