日本人にとって、「温泉マーク」はなじみ深く、♨は「おんせん」と入力すれば変換できるほどです。では、海外にも温泉マークはあるのでしょうか?あたり前のようですが、温泉が数多くあり、温泉利用の盛んな国にはその国独自の温泉マークがあります。温泉マークは絵で対象を表す「ピクトグラム」の一種です。筆者が旅した中で、出会った主な温泉ピクトグラムを紹介します。
(1) プール(浴槽)タイプと噴泉(噴水)タイプが主流
ヨーロッパでは、浴槽に浸かる習慣がなく、シャワーだけで十分という国が数多くありますが、ハンガリーやアイスランドなど、温泉入浴の文化が発達した国のピクトグラムは「浸かる」を図式化しています。アイスランドの温泉ピクトグラムはハンガリーに似ていますが、温泉の場合は「温度計と温度」が併記されていて、これがない場合はただのプールを指すようです。ただ、日本人からすると、プールのようにも見えてしまいます。一方、チェコのように飲泉文化が主流で、温泉入浴は盛んでない国は噴泉(噴水)タイプです。イタリアやタイでは、温泉入浴も盛んですが、ピクトグラムは噴泉でした。
(2) 海外の「温泉街道」
南半球のニュージーランドは数多くの温泉の湧く国として知られています。特に、ノース・アイランド最大の温泉郷ロトルアから南へ80キロのタウポまでの区間には20か所以上の温泉が鈴なりです。この区間を含む国道には「温泉探検街道」の別名があります。ニュージーランドに多い間欠泉をデザインしたピクトグラムが使われています。
カナダも環太平洋火山帯に位置する西海岸沿いに多くの温泉があります。温泉そのものを表すピクトグラムではありませんが、車で一周できる温泉街道を示す看板に沿って、筆者は旅したことがあります。後日、ブログで紹介したいと思います。
(3) 日本の温泉マークをそのまま使っている国
日本と歴史的なつながりの深い台湾や韓国では、温泉マークがそのまま使われています。韓国では温泉だけでなく、安宿やラブホテルを表すマークとしても使われてきたため、温泉専用のピクトグラムを別に選定したようですが、なかなか定着していないと言います。温泉以外と混同しないよう注意が必要ですが、温泉を表すマークとして使われているのは間違いありません。
オーストラリアのメルボルン近郊のペニンシュラ温泉は日本の温泉地などを参考に開発されたというだけあって、日本の温泉マークに似たシンボルマークを使っています。スペイン北西部のオウレンセ温泉も日本の温泉を参考に開発を進めた温泉町で、温泉マークと「温泉」の文字を見かけます(地球の歩き方の連載記事で近くオウレンセ温泉を採り上げる予定です)。海外で日本の温泉マークを見かけると、やはり嬉しいものがあります。
(4) 温泉ピクトグラムのISO化
日本の温泉マークに対しては、海外の人から「温かい料理のように見えてしまい、温泉とは思えない」といった声があります。国際標準化機構(ISO)は2013年に、温泉のピクトグラムを下記のように制定しました。確かにこれなら人が浸かっているのがすぐにわかり、料理には見えません。
東京オリンピックの開催を2020年に控えていた日本では、来日する多くの外国人にわかりやすいように、諸々のピクトグラムをISO規格に統一するという方針から、一時は温泉マークをISO規格と同じものにするという方向性が示されました。しかし、日本人や外国人に対する認識度調査の結果や、温泉に関連する様々な人々・団体からの反対意見を考慮して、従来の日本式温泉マークでもISOの定めるピクトグラムでも構わないという最終決定が2017年になされました。
非常口、トイレ、情報案内所、コインロッカーなどのピクトグラムを国際的に統一するのはよいと思いますが、温泉はそこまで統一化が重要とは思えません。その国独自の温泉ピクトグラムがあってもすぐに慣れますし、それがまたよいところです。
筆者はこれまで50を超える国で温泉を訪ねてきましたが、ISO式のピクトグラムを使った温泉施設にはまだ出会えていません。あれば、ぜひ写真を撮りたいと思っています。
今回の記事で触れたハンガリー、アイスランド、イタリア、台湾、ニュージーランドの温泉は拙著(第二弾)で「特集」として、詳しく紹介しています。ぜひご参照ください。
なお、ISOピクトグラムの使用には細かいルールがありますが、今回の記事はあくまでも事例紹介ですので、転用させていただきました。