日本の温泉では当たり前のものが海外でも存在しているかを調べて紹介する第二弾は温泉卵です。
高温の湯が湧く温泉地では「温泉卵(玉子)」が人気です。一口に温泉卵といっても、温泉成分が殻に付着して真っ黒なものや、温泉の塩分で塩味が効いたもの、スモークされたような味のものなど様々です。中でも、卵黄より卵白の方が柔らかい卵が有名で、温泉卵といえばこれを指すと思っている人も多くいます。温泉で茹でた卵はすべて温泉卵なのですが、他の温泉卵と区別したいときは反対卵などの名で紹介されることがあります。卵黄の凝固温度(約70℃)が卵白の凝固温度(約80℃)より低いため、70℃前後の温泉で茹でると、このような卵ができるのです。
日本では地熱の力で野菜や肉を蒸す料理もあり、別府や阿蘇周辺の温泉で有名ですが、「お湯で茹でる」と言えばやっぱり卵が代表的です。海外にも温泉卵はあるのでしょうか?
反対卵を海外で見たことはありませんが、温泉卵は多くの国でみかけます。特に、台湾、中国、タイ、インドネシア、マレーシアなどのアジア諸国で人気があるようです。
(1) 台湾の温泉ではどこでも見かける温泉卵
日本と同じく環太平洋火山帯に属する台湾では、全土に渡って火山性の温泉が湧いています。日本の統治時代の影響もあるのか、高温の温泉が湧くエリアでは、必ず温泉卵があると言っても過言ではありません。
(2) 中国ではいろんなものを茹でます
中国でも温泉卵は人気で、高温の温泉が湧くエリアでは卵を販売しています。例えば、雲南省の騰衝(テンチョン)温泉は中国最大規模の地熱地帯として知られています。9平方キロの広大なエリアに30を超す温泉池や噴泉・噴気孔が点在する「熱海(ルーハイ)景区」は最も人気の観光地です。景区に入って最初に現れる大滾鍋は90℃以上の温泉池です。ゴボッゴボッと脈動的に湯が盛り上がり、温泉の猛烈なエネルギーを感じます。鶏卵、ウズラの卵、落花生、ジャガイモなどが販売されていて、茹でたり蒸したりできます。
中国国東北部、吉林省の長白山(チャンバイシャン)温泉は、北朝鮮との国境地帯にあります。美しい火口湖や滝、温泉が織りなす風景を求めて多くの観光客が訪れます。長白山は活火山で、山腹に湧く高温の温泉を使って温泉卵が作られています。
(3) 温泉卵はさまざまな国で食べられている
タイ、インドネシア、マレーシアなどの東南アジア諸国でも、高温の温泉が湧く場所では卵が販売されています。特に、タイ北部で古くから開けたサンカムペーン温泉は、卵を温泉地のシンボルにしていて、卵の塔の前で記念写真を撮る人が多くいました。
インド北部のマニカラン温泉でも高温の源泉を調理に利用しています。卵を販売しているのは見ませんでしたが、ジャガイモを茹でたり、米を炊いたりしていました。
アジア以外でいうと、サンミゲル島(ポルトガル)では卵や野菜を高温の温泉で茹でていましたが、みな自分で食材を持参するようで、卵の販売はありませんでした。また、ロトルア(ニュージーランド)もサンミゲル島と同じく、地熱で蒸した料理が代表的ですが、卵の販売はみかけませんでした。
(4) 温泉卵の販売はアジア限定か?
最後に、筆者の記憶に強く残ったエピソードを紹介しておきます。中米エルサルバドルにある地熱発電所近くの温泉を訪ねた時のこと。私が日本人だと知ると、地元のおばさんが話しかけてきました。「地熱発電所の建設時に多くの日本人技術者が来た。みな、高温の温泉で卵を茹でていた」とのこと。「皆さんはしないのか?」と聞くと、「だって、わざわざ温泉まで出かけなくても、卵は家で茹でられるからね」との返事でした。
日本人は、単に茹でるツールとして温泉を利用しているのではなく、温泉の「力」で卵がよりおいしくなると感じて(信じて)いるのかもしれません。日本から東南アジアに至るアジア圏では、卵を販売していましたが、同じような感性で卵を茹でているなら、面白い限りです。ちなみに、アジアの温泉で「なぜ卵を温泉で茹でるの?」と何人かに聞いてみたところ、数人が「おいしくなるから」と答えてくれました。ただ、「そこで卵を売っているから」「おなかが空いたから」という回答が多かったので、前記の仮説はまだ検証途中です。アジア以外の温泉地で「茹でるための卵を販売している事例」があれば、ぜひ教えてください。
なお、騰衝(中国)とマニカラン(インド)温泉は拙著(第二弾)で詳しく紹介していますので、よろしければご参照ください。